消費、なぜ伸びない? 構造変化、通信や食事を重視

百貨店の閉店が相次いでいるわね。総合スーパーも売り上げ不振に悩んでいるという話を聞いたわ。なぜそんなに消費が不振なのかな。

消費不振について、飯塚三枝子さん(48)と大越友紀子さん(53)が田中陽編集委員の話を聞いた。

百貨店の閉店が相次いでいますね。

「百貨店のそごう・西武は9月、そごう柏店(千葉県柏市)と西武旭川店(北海道旭川市)を閉店しました。来年2月には西武筑波店(茨城県つくば市)と西武八尾店(大阪府八尾市)を閉めます。さらに、そごう神戸店(神戸市)など関西の3店舗は、阪急阪神百貨店などを傘下にもつエイチ・ツー・オーリテイリングへ譲渡することも今年10月に発表しました。三越伊勢丹ホールディングスも来年3月、三越千葉店(千葉市)と三越多摩センター店(東京都多摩市)を閉店する予定です」

「百貨店の売上高は1990年代から長期低落傾向にありました。それが2013年ごろから『アベノミクス』で株価が上昇し、富裕層が高額商品を買うようになったことに加えて、中国人を中心とする訪日観光客の『爆買い』ブームが起きて持ち直していたのです。しかし最近は訪日客の買い物が低価格の日用品にシフトし、百貨店の売り上げは再び落ち込んでいます。特に地方の店舗は厳しい状況です。消費構造の大きな変化に百貨店は対応できなくなっています」

消費構造はどう変わったのですか。

「総務省の家計調査のデータをみると、1世帯の1カ月の消費支出額はここ数年、29万円程度で、これはバブル経済のさなかだった88年とほぼ同じ水準です。ただし、支出額を項目別にみると、保健医療や交通・通信への支出が80年代と比べて大きく伸びている一方で、被服・履物や家具・家事用品は大幅に減っています。携帯電話会社への支払いは増えても、百貨店の主力商品である衣料品への支出は抑えているわけです」

「業態別にみると、百貨店の売上高が落ち込む一方で、大きく伸びたのがコンビニエンスストアです。そして最近10年間では、ネット通販などEコマースが急激に成長しました。スーパーの売上高は高い水準を維持していますが、これは食品スーパーが比較的好調なためで、衣料品なども扱う大型の総合スーパーは苦戦しています」

一部の勝ち組以外は苦戦しているわけですね。

「かつて『小売業の王様』と考えられていた百貨店が衰退しただけでなく、様々なところで、これまでの消費の常識が通用しなくなっています。2008年のリーマン・ショックをきっかけとした世界的な金融危機や、11年の東日本大震災の時には、一時的に消費が落ち込んでもしばらくすると回復していました。ところが、14年4月の消費税率引き上げで消費が落ち込んだ後は、給与が増えているにもかかわらず、2年以上たった今も消費が一向に回復していません」

「従来の常識が通用しないのは『エンゲル係数』も同じです。エンゲル係数は消費支出に占める食費の割合で、所得が増えれば増えるほどエンゲル係数は下がり、所得が減れば係数は上昇するというのが常識でした。ところが日本では1990年代半ばごろから2000年代半ばにかけて、所得が減ったにもかかわらずエンゲル係数が落ち込みました。さらに、その後は所得が伸び悩んでいるものの減少はしていない状況の中で、エンゲル係数は急上昇に転じています。日本の消費構造の変化を示すデータの一つといえそうです」

今後はどんな消費が増えそうですか。

「野村総合研究所が3年に1度実施している『生活者1万人アンケート』によると『積極的にお金を使いたいのは何ですか』という質問に『食料品』『外食』『交際費』を挙げる人の割合が増える傾向にあります。百貨店でも、いわゆるデパ地下の食品の売り上げは好調です」

「もう一つ、注目しているのは『リサイクル消費』です。最近、商店街の衣料品店などがリサイクルショップに代わるケースが増えているようです。インターネットで中古品の個人売買を仲介するフリーマーケットアプリのメルカリは若者の人気を集め、すでに月間100億円ぐらいの取引があるといわれています。こうした需要を掘り起こす新たなビジネスが今後も生まれるかもしれません」

■ちょっとウンチク
実態映す統計 開発急務
今から約1700年前、まだ経済学という学問もなく、統計も整備されていなかった時代に為政者が庶民の生活を知る手段として活用したのが竈(かまど)の煙だった。高台から仁徳天皇が竈の煙が立ち上っていないのを見て、庶民の生活が苦しいことを把握したという逸話だ。似たような話ではフランスのアンリ4世が「日曜日には国民に鶏肉の鍋料理を食べさせたい」といったものもある。一国の経済活動を知る上で消費がいかに重要な要素であるかがうかがえる。
実は経済学の父とも呼ばれることがあるアダム・スミスも消費の重要性について着目し、生活の必需品の充足度合いで国民の豊かさが決まると記している。
2014年の消費増税後、個人消費に関する多くの統計データは力強さを欠く。統計の精度を疑問視する声も次第に大きくなってきている。インターネットを活用した衣料品などの個人間売買が活発となり消費の実態は見えにくくなっているのは事実だ。現代版「民の竈」の開発が求められている。
(編集委員 田中陽)
■今回のニッキィ
飯塚 三枝子さん アパレル勤務。時々、1人で飲食店に入り夕食とお酒を楽しむ。「テレビドラマ『孤独のグルメ』が好きで、番組で紹介されたお店にも行きます」
大越 友紀子さん 会社経営。海外旅行が好きで、中近東や北アフリカも訪れる。「今年の春はベトナムへ行きました。年末年始は香港で過ごしたいと思っています」

[日本経済新聞夕刊2016年11月7日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は11月21日の予定です。

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