誰が音楽をタダにした? スティーヴン・ウィット著「聴く権利の販売」に変わるまで

いまや音楽はインターネット経由で楽しむ時代となった。音楽の聴き方が大きく変化する中、音楽業界にとって痛烈な一撃となったのは、違法コピーによる音楽データがインターネットにあふれ、タダで音楽を聴く人が激増したことだろう。何故(なぜ)こんなことになったのか。

(関美和訳、早川書房・2300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書が解き明かす事実は衝撃的だ。まず、発売前の音楽を非合法に入手してインターネットにアップするリーク組織を白日の下にさらす。しかも彼らの動機は、誰が先に音楽をリークするかという、何とも幼稚な功名争いにすぎないのだから言葉を失う。また世界一の音楽リーク組織のキーマンが大手レコード会社のCD製造工場に勤める男だったのにも脱力した。

こうしたリーク組織は違法入手した音楽の多くをmp3に変換してネットにアップする。mp3はCDの音楽データを同等の品質で12分の1以下に圧縮する方式だが、開発したドイツ人チーム(アメリカ人ではない!)がmp3プレーヤーのメーカーに特許をライセンスすることで大きな富を得ていたことも、本書で初めて知った。

これらの事実を本書は、リーク組織のキーマンやmp3の開発者、音楽ビジネスの大御所に取材して克明に描き切る。功名心に最新の技術が結び付き、音楽業界の既存ビジネスモデルを崩壊させるのだから、まさに蟻(あり)の一穴を地で行く話である。

しかし現実の物語はまだ終わらない。大打撃を受けた音楽業界は、今やストリーミングによる音楽配信で息を吹き返そうとしている。実際、全米レコード協会の最新の調査によると、米国音楽市場の47%は有料のストリーミング音楽配信が占め、その急成長により市場全体も大きなプラス成長を達成した。

象徴的なのは、著者が本書末尾で10万曲もの違法コピーを廃棄し、ストリーミング音楽配信で世界最大の利用者を誇るスポティファイに加入する場面だろう。4000万曲もの音楽をタダまたはわずかな金額で聴けるスポティファイの前に、違法コピーを所有する意味はまるでない。今や音楽ビジネスは「音楽の販売」から「聴く権利の販売」へと軌道変更しつつある。

日本ではアップル・ミュージックがストリーミング音楽配信を始めて1年以上が過ぎた。つい先頃(さきごろ)にはスポティファイも日本上陸を果たした。このタイミングで出た本書は、古い音楽ビジネスの終焉(しゅうえん)を描きつつも、実は新たなビジネスモデルの台頭を予感させるのであった。

(ノンフィクション作家 中野 明)

[日本経済新聞朝刊2016年11月6日付]

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち

著者 : スティーヴン・ウィット
出版 : 早川書房
価格 : 2,484円 (税込み)

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