ベビーカー、ロボットに進化 搭載カメラや自動操縦?
卵の中に赤ちゃんが座っているような形だったり、大きなタイヤ付きだったり、スタイリッシュなベビーカーをよく見かけるようになった。ここ数年はロボットのような動きをするものまで登場し、進化を遂げている。
東京・六本木にあるセレクトショップを訪ねた。米国発のハイテクベビーカー「フォーマムズ・ストローラー」を店頭で試せると聞いたからだ。持ち上げると重くてびっくり。総重量は13キロもある。ボタンを押すと、いきなり小さく折り畳んだ形から自動でベビーカーになった。もう一度押すとまた小さくなる。まるでロボット。1台16万円強するが「富裕層を中心にハイテク製品が好きな人が買っている」(輸入元スマートトレーディング広報)という。
ベビーカーの始まりは1848年の米ニューヨーク。チャールズ・バートンという人が初めて作ったそうだ。日本では福沢諭吉が約20年後の67年に米国からベビーカーを持ち帰り、息子を乗せた。木、皮革、鉄、ガラス製で、サイズは全長134センチ、高さ105センチ、幅67センチと大きい。
もっとも、日本の一般家庭にはなかなか普及しなかった。値段が高く、上流階級が持っていた程度だ。「おんぶや抱っこの文化が根強いことも要因」と大妻女子大学家政学部の阿部和子教授は指摘する。「子ども向けの道具は大人が使う日用品で代替することが多く、育児専用のものを買う発想が薄かった」
折り畳み式登場 日本で大ヒット
ベビーカーが画期的に進化したのは1967年に航空工学者オーウェン・マクラーレンが世界で初めてアルミ合金製の折り畳み式ベビーカーを発売したことだ。赤ちゃんを連れて電車や飛行機で移動ができるようになった。
日本では高度経済成長期の75年にアップリカ(現アップリカ・チルドレンズプロダクツ)が初めて売り出した折り畳み式「アップリカー」が大ヒットした。2年後に発売したコンビの「サンドラ」は価格が1万数千円と当時としては高いが、1日1000台生産する勢いで売れた。
「欧米と違って日本のお母さんが求めたのは、軽さとコンパクト」とコンビでベビーカーの開発をする寺内健さんは話す。住居が狭く、電車で移動する機会が多い日本では小回りが利いて、小さく折り畳めるものが好まれる。同社の南浦和テクノセンター(さいたま市)でサンドラと同じ型の三つ折り方式を見た。上部を折り畳む形で二つ折りにし、さらに左右に畳むと幅29センチになる。片手で簡単に折り畳めるもの、畳んでも自立するものなど開発は進んだ。
国内メーカーは特に軽量化にしのぎを削った。赤ちゃんを寝かせる部分のクッション性や車体の強度の安全基準をクリアしつつ、ギリギリまで軽くしたのが2006年にコンビが発売した「メチャカルファースト」。月齢の低い赤ちゃんを乗せるA型で3.9キロという最軽量品だ。「小型軽量化で日本の技術は海外製品と比べてかなり高い。これ以上できない水準に達している」と寺内さんは話す。
軽量競争にメド 今後はIoT
00年以降はデザイン性の高い欧米のベビーカーが人気だが、今後ヒットするのはどのようなものか。「IoTがカギを握りそう」と話すのはベンチャー企業Ginger(ジンジャー、東京・江東)の星野泰漢さん。同社が大手広告代理店と共同開発した「スマイル・エクスプローラー」は、ベビーカーに小型カメラを内蔵し、画像認証システムを使って笑顔になった瞬間の赤ちゃんの写真を撮る。
星野さんは「赤ちゃんとの外出時間がより楽しくなる手助けをしたい」と話す。1年半後に世界での商品発売を目指している。センサーで赤ちゃんが座る座面の温度を知らせたり、おむつ交換の時などが分かる機能が付いたり、スマートフォンを使った付加機能は今後出てきそうだ。
もう少し未来のベビーカーの姿を想像してみた。独フォルクスワーゲンのオランダ法人が作成した動画がある。ベビーカーが男性をひたすら追走する。一定の距離を保ちながら男性が歩き始めれば離れず付いていき、急に止まればピタッと止まる。自動車の自動追走走行システムや自動ブレーキを搭載したハイテクベビーカーだ。
動画は自動車の機能進化の宣伝目的で作った物で、実際にはベビーカー本体に機械を入れ、外部から無線操縦のように操作して動かしたと同社広報は種明かしをする。だが、もし実現すれば親がジョギングしながら赤ちゃんの様子を見られたり、人や物が急にぶつかりそうになった時によけてくれたり、赤ちゃんとの生活シーンが変わりそうだ。高度な自動運転車の実用化は20年をめどに開発競争が進むが、安全なベビーカーとして、搭載は夢物語ではない。
ついてきてくれたら…
ベビーカーが自動で動いてくれればと思うのは、子どもが急に「乗りたくない」と駄々をこねた時。そうなると左手に15キロの娘を抱え、右手でベビーカーを押すが、これが大変だ。空っぽのまま後からついてきてくれたらどんなに楽だろう。ベビーカーが「もっとお散歩したい」「おなかすいた」など赤ちゃんの気持ちを代弁してくれたら便利なのに。いや、やっぱり母親としての察知力を磨くのが先か。
(坂下曜子)
[日経プラスワン2016年11月5日付]
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