札幌で味わう地元食材スイーツ
風味格別、散策のお供に
白い雪がちらちら舞い始めた札幌。北の大地でとれた新鮮なミルクや農産物で作った絶品スイーツでほっこりくつろぎたくなる季節がやって来た。地元素材をふんだんに使ったスイーツを新たな街の「顔」として盛り上げようとする取り組みが進んでいる。
JR札幌駅から徒歩5分、札幌全日空ホテル内のカフェのショーケースに目を引く白いケーキが並ぶ。円柱型で、とろっとした艶が印象的だ。
同ホテルの紺野直美パティシエール(31)が「札幌ならではの野菜を使ったケーキを作りたい」との思いで考案した「ガトー"たまねぎ"SAPPORO」だ。企業・団体などで構成する「スイーツ王国さっぽろ推進協議会」が札幌の洋菓子の向上を目的に主催する「さっぽろスイーツ2016コンペティション」でグランプリをつかんだ。
材料に使うのは糖度が13度とフルーツ並みのタマネギ「札幌黄」。明治10年(1877年)、米国の農学者ウイリアム・P・ブルックス博士が札幌農学校(現北海道大学)に着任し、札幌黄の原種といわれる「イエロー・グローブ・ダンバース」を持ち込んだとされる。病虫害に弱く、生産量が少ないことから現在は幻のタマネギと呼ばれる。
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タマネギにじっくり火を通して甘みを引き出し、クッキーに練り込んで土台とした。道産チーズのムースフロマージュを重ね、上から道産牛乳や生クリーム、ヨーグルトで作ったソースを丁寧に流しかける。タマネギクッキーとチョコレートをトッピングし完成だ。
実際に購入し、食べてみた。ムース部分はスプーンがすーっと入るなめらかさ。土台のクッキーと一緒にほお張ると、ミルクの風味が生きたムースが舌の上でとろけ、いためたタマネギの香ばしさが口中に広がった。白ワインやスパークリングワインと相性がよさそうだ。
3月の北海道新幹線開業や海外からの直行便の増加で、札幌は観光客に沸く。スイーツを観光客の街歩きにつなげる仕掛け作りも始まる。
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1976年発売の定番土産菓子「白い恋人」を製造する石屋製菓(札幌市)が運営する喫茶店「ISHIYA CAFE」など、市内中心部の12のスイーツ店が新たな商品開発を始めた。ブーケの形に巻いた栗どら焼きや固焼きクレープ、棒状のブラウニー。歩きながらでも食べやすいのが共通の特徴だ。
札幌商工会議所は10月末、観光客にこれらのスイーツを食べながら観光施設を巡ってもらう「さっぽろワンハンドスイーツ体験」を開いた。各店は商品の定番化を目指しており、同商工会議所は「ススキノの酒やラーメン、海産物に負けない魅力を広めたい」と力を込める。
札幌で近年相次ぐのが北海道各地の有名菓子メーカーの旗艦店設置だ。昔ながらの製法の「北海道開拓おかき」や大きなシュークリームが有名な北菓楼(砂川市)は2016年3月、観光名所の大通公園近くに札幌本館を開業した。大正15年(1926年)竣工の図書館を建築家・安藤忠雄氏の設計で建て替えた。建設当時のれんがやタイル、玄関を生かした重厚感のあるたたずまいが特徴だ。
1階のカウンターで札幌本館限定のクロワッサンシュー「夢句路輪賛(ゆめくろわっさん)」をひとつ、包んでもらった。げんこつ大で、キャラメル色に焼かれた道産小麦のクロワッサン生地。空気の層が重なってぱりっと堅い。
大きくひとくち。真ん中から優しい卵の甘さのカスタードがとろっとあふれ、口の中でバターの風味が追いかけてくる。手や口の回りを汚しながら、思い切りよくバクバクっと食べてしまう逸品だ。
このほか、白地に素朴な色使いの草花の絵をちりばめた包装紙でおなじみの六花亭(帯広市)も15年、JR札幌駅のほど近くに札幌本店を開いた。定番の「マルセイバターサンド」をアレンジしたアイスサンドなどが楽しめる。
この場所に来た人だけが出合える店舗や商品が増えている。各店が魅惑の味で競い合い、スイーツの街として札幌の魅力はさらに高まっている。
札幌近郊にはNHK朝の連続テレビ小説「マッサン」のモデルとなった竹鶴政孝夫妻が通ったスイーツ店が点在する。そのひとつが1929年創業の老舗洋菓子店「あまとう」(北海道小樽市)だ。
竹鶴夫妻は、ウイスキーの蒸留所を構えた余市町から北のウォール街と呼ばれた隣町の小樽を頻繁に訪れ、甘味も楽しんだ。
現在、旧北海道拓殖銀行の流れを引く北洋銀行本店が入る札幌市中心部のビル「大通BISSE」のスイーツショップでも気軽にあまとうの味を楽しめる。
(札幌支社 石橋茉莉)
[日本経済新聞夕刊2016年11月1日付]
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