白内障手術、レーザーで高額費用が課題 装置改良進む

2016/10/25

病気・医療

特殊なレーザー光をメス代わりに使う白内障手術が注目されている。眼球の目的の場所を正確に切開でき、人工レンズがうまく入らないなどのまれなトラブルも防げると期待されている。ただし高額な機械が必要なため自費診療になることがほとんどで、費用が高くつく。また実際にどれくらいトラブルが減るかという検証はこれからだ。
フェムト秒レーザーを使った手術のイメージ(東京都千代田区の東京歯科大水道橋病院)

白内障は国内に患者が約4000万人いるとされ、80歳代だとほぼ100%に症状がある。70歳代のAさんは視界がぼやけるようになり、眼科で両目とも白内障と診断された。医師は眼球の中にある濁った水晶体を取り出し、人工レンズに置き換える手術を説明した。Aさんは乱視も進行していたため、正確な手術ができるフェムト秒レーザーによる手術を勧められた。

フェムトとは1000兆分の1のこと。その名の通り、1000兆分の1秒という極めて短時間の光パルスを連続的に照射するレーザーを使う。狙った場所に照準を合わせ、一瞬で目の組織を蒸発させる。レーザーを移動しながら針の先で突くように連続的に照射を繰り返し、正確に組織を切断する。光が当たっている時間が1フェムト秒と極めて短いので、近くの組織への影響が少ないのが特徴だ。

手術では、水晶体が入っている袋の前面(前のう)にレーザーを円形に照射し、1000分の1ミリの精度でまん丸に切開する。所要時間は数秒で、外科医のメスによる手術より短い。

続いてレーザーで濁った水晶体に切れ目を入れ、超音波で砕き、角膜に2ミリ程度の小さな穴を開けてストロー状の器具で吸い上げる。この穴から折り畳んだ人工レンズを入れて中で広げ、固定する。

レーザー照射に先立って、まず光干渉断層計(OCT)という装置で眼球の大きさや形を3次元的に正確に測る。人それぞれに違う眼球の形に合わせて、どこをどれだけ切開すればいいかをコンピューターではじき出す。

測定やレーザーの照射はすべてコンピューターが自動で制御する。医師は自らメスを振るうのではなく、手術が異常なく進んでいるかどうかを監視するのが主な役割だ。

フェムト秒レーザーを使った白内障手術は2008年にハンガリーで初めて実施され、50カ国以上に広がった。日本の大学病院では東京歯科大学水道橋病院(東京・千代田)が第1号。13年に装置を導入し、これまでに500例以上を実施した。当初から担当するビッセン宮島弘子教授は「手作業だった手術を自動化し、見え方の質を向上させた」と語る。

例えば遠近両用レンズや乱視を矯正するレンズは一定の方向に固定する必要があり、そのためには正確な円形に切開することが重要だという。通常の手術では医師の腕に左右されるが、この方法なら機械で正確に円形にできる。

東京慈恵会医科大学(東京・港)は6月にフェムト秒レーザーによる手術を始めた。常岡寛教授は「熟練した医師でも、完全に満足のいく手術は7割程度。フェムトなら95%はうまくいき、『神の手』は要らなくなる」と話す。同病院では、今年度末までは臨床研究として患者負担を求めずに手術例を積む計画だ。

◇     ◇

ただ定着には時間がかかりそうだ。装置は国の承認を得ているが保険点数は従来の手術と同じ。ほとんどの医療機関では自費診療としており、費用は東京歯科大の場合で50万~60万円に上る。ビッセン教授は「保険適用には時間がかかるだろう」と見る。

ただフェムト秒レーザーで患者にどんなメリットがあるのかは、はっきりとわかっていない。白内障手術の進歩をけん引してきた山王病院アイセンター(東京・港)の清水公也センター長は「メスの方が切開面がきれい。フェムトが患者に恩恵を与えているというエビデンス(科学的証拠)はまだない」と批判する。

実際、これまで国内で導入された手術装置は30台程度。1台数千万円以上と高額なため、多くの病院が二の足を踏む。年間約140万例の白内障手術のうち、フェムトによるものは1万例にも満たない。実績が増えないと保険適用は見えてこない。

常岡教授は「装置が今後さらに進化し、安価になれば使いやすくなる」と語る。ビッセン教授は「レーザーと超音波の装置を一体化するなどの改良は、2~3年以内には実現するだろう」と見る。

高齢化社会の進行に伴い、白内障患者は増えるとみられる。どんな手術法を選択するか、医師と相談しながら考えていく必要がある。

◇     ◇

水晶体摘出 19世紀から

白内障という病気は紀元前から知られており、18世紀には水晶体の濁りが原因であることが分かっていた。水晶体の中に整然と並んでいたたんぱく質が加齢によって変質し、塊を作って蓄積され、そのために濁ってくる。19世紀には水晶体を摘出する手術が行われるようになり、1949年に初めて人工レンズが埋め込まれた。

当初は大量の麻酔を使って角膜を大きく切開していたが、80年代には約6ミリですむようになった。目薬のように差すだけで効く麻酔が普及し、手術時間も短くなって、白内障手術は格段に向上している。フェムト秒レーザーならさらに手術の精度向上が期待できる。

フェムト秒レーザーは20年ほど前、情報技術(IT)に使う高密度記録技術の一環として開発された。近視を矯正するレーシック手術で角膜を切開するのに使われたのをきっかけに眼科領域で注目され、白内障手術にも利用されるようになった。

(池辺豊)

[日本経済新聞朝刊2016年10月23日付]

注目記事