スマホでお手軽VR サーフィンや車、迫力満点
ゴーグルは1000円
「お~」「近づいてくるぞ!」。今年5月、サイバーエージェント子会社が徳島県で開いたスマホ向けの新しいゲームアプリの体験会。新機軸として打ち出したVR機能に、利用者からは驚きの声が上がった。
サイバーエージェントが7月に正式に配信を始めたアプリ「オルタナティブガールズ」は一見、女子キャラクターを育てながら敵と戦う一般的なゲームだ。だがいったん戦闘の場を離れると、違う風景が広がる。メーン画面の左側のボタンを押して入る「VRラウンジ」は、プレーヤーに用意されている特別な場になっている。
ラウンジ内で画面を動かせばゲーム内のキャラクターがいる。見つけると、近づいてきて話しかけてくれる。現実世界で近づいてきたのかと勘違いしそうになるほどの臨場感だ。このVR機能が男性を中心に50万人以上の利用者を集めた原動力になっている。
スマホでVRを体験する最大の利点は価格の安さにある。対応装置となる、段ボール紙を組み立てて作るレンズ付きの簡易なゴーグルは1000円ほどから購入できる。ゴーグルにスマホを取り付けるだけ。顔の向きを変えることが画面操作になる。操作機器の付いた専門端末が数万円することを考えれば安い。ゴーグルなしでもVRの雰囲気を味わえるアプリは多い。
スマホでVRが楽しめるのはゲームだけではない。新興カメラメーカーの米ゴープロが提供するアプリでは、360度カメラで撮影した動画を投稿したり視聴したりできる。例えばサーフィンの動画を視聴すると、サーファーの目線だけでなく、タッチ操作で波の上や、水中からなど様々な角度で動画を楽しめる。1万人以上の制作者によって、1万5000以上の動画が投稿されているという。
米グーグルの「Spotlight Stories」はアニメーション映画の世界に入り込むような体験ができる。米ピクサー・アニメーション・スタジオの加工技術を使い、短編アニメの世界を360度動画で再構成した。ゴープロのアプリと同様に、日本でも無料でダウンロードできる。
メーカーも提供
コンテンツ提供企業だけでなくメーカーも意欲的に取り組んでいる。
異色のアプリとしては、トヨタ自動車が提供する「Lexus Virtual Drive」がある。同アプリで、トヨタの高級スポーツクーペ「レクサスRC F」の助手席に乗っているような映像が楽しめる。
スペインにある実際のコースを「RC F」がカーチェイスしている様子を360度カメラで撮影し、臨場感ある映像に仕立てた。コースの内側や外側など、通常では味わえない視点でその迫力を体感できる。
ダウンロード数は欧州を中心に2万件以上。トヨタにはアプリを通してブランドイメージの向上や、実際の購入につなげる狙いがある。とはいえ純粋にVRを楽しむ点で、高級車で迫力あるドライブを体験するのもいい。
VRの技術はまだ発展途上だ。裾野が広がることで技術が進み、価格が下がれば、普及に弾みがつく可能性がある。いち早くスマホで手軽に体験して「VRマスター」になっておけば、話題のタネに事欠かなくなりそうだ。
(メディア戦略部 北爪匡)
[日本経済新聞夕刊2016年10月20日付]
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