いま知っておきたい「フィンテック」の基本と注意点

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最近、「フィンテック」っていう言葉をよく聞くわね。いったいどういうものなのかな。わたしたちの暮らしにも影響があるの?

フィンテックをテーマに、山田さくらさん(42)と山崎友里江さん(31)が太田康夫編集委員の話を聞いた。

そもそもフィンテックって何ですか?

「フィンテック(Fintech)とはファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)という2つの言葉を組み合わせた造語です。IT(情報技術)を使った新しい金融サービスの総称で、融資や決済、投資、資産管理、保険など幅広い分野にわたっています。2003年ごろに使われ始めた言葉ですが、新しい潮流として広く注目されるようになったのはここ数年です」

なぜいま注目されているのでしょうか。

「大きく分けて、金融側の要因と、IT側の要因があります。金融側の要因で大きかったのが、08年のリーマン・ショックによる世界的な金融危機です。過大なリスクを取った金融機関の投機的な取引の失敗が危機を招いたため、金融監督当局は危機の再発防止をめざして銀行の資本規制を強化したり、業務を制限したりしました。それを受けて多くの銀行が自己資本比率を高める目的で融資を減らしたため、その隙間を埋める形で銀行以外の企業がITを利用した小口融資に参入するようになりました」

「また、業務を制限された銀行は収益性を示す自己資本利益率(ROE)の目標水準の引き下げを迫られました。その結果、ROE目標が高かった時には魅力的と映らなかった決済業務などを再評価し、再び注力するようになりました。さらに、下がってしまったROEを少しでも引き上げるために、さまざまな業務でITを活用し、人手をかけずコストを下げようとしています」

「こうした動きをIT側の要因も後押ししました。インターネット経由でデータの処理や保存をするクラウドサービスが普及し、企業が自前で大規模なシステムを持たなくても済むようになりました。世界的にスマートフォン(スマホ)が普及し、個人が高度な金融取引をしやすい環境が生まれました。人工知能(AI)が発達し、大量のビッグデータを利用して高度なサービスが提供できるようになっています。米シリコンバレーなどでそうした新しい技術を金融に応用しようとする機運が高まりました」

具体的にフィンテックでどういうことが可能になりましたか。

「銀行以外の企業などが、インターネットを活用して、資金を求める中小企業や個人と、小口の資金を出す人を仲介するクラウドファンディングやP2Pレンディングと呼ばれる小口融資を始めました。ビットコインと呼ばれるインターネット上で決済に使える仮想通貨の取引も増えています。ビットコインに使われているブロックチェーン(分散型台帳技術)と呼ばれる新しい技術を利用すれば安価で安全な取引ができる可能性があるため、銀行が貿易金融などの分野で活用実験をしています」

「スマホを使った送金や決済はすでに利用している人も多く、さらに普及すると考えられます。どんな金融商品や株に投資したらよいか、AIが助言するサービスも始まっています。個人が持っているたくさんの金融機関の口座残高やクレジットカードの請求額などをネット上でまとめて管理するサービスもあります」

日本の企業や銀行もフィンテックに力を入れているのですね。

「対応が早かったのは内閣府が地域創生の一環として促したクラウドファンディングで、各地域で取り組みが広がっています。最近はフィンテックが一種のブームになっているので、メガバンクなども『ウチもやっています』という姿勢を見せようと懸命です。ただ日本のフィンテック投資額は米国に比べて少なく、遅れています。どこまで実効性があるかはわかりません」

「AIによる融資の審査や投資助言も、決して万能ではないことには注意する必要があります。ネットでビッグデータを集められるようになったといっても、日本の大手銀行はもともと、融資先や預金者の情報を大量に持っているのに、それを使いこなせていませんでした。ITがすべて解決してくれるとは限りません」

■ちょっとウンチク
非銀行の参入で競争促す
世界でフィンテックを主導するのは銀行よりも非銀行勢力だ。決済サービスの米ペイパルの株式時価総額は三井住友フィナンシャルグループを上回る。危機感を抱く米銀はフィンテックベンチャー取り込みに懸命になっている。
銀行網より携帯電話が普及した新興国では特に有望だ。中国のネット決済アリペイの決済額はペイパルの3倍。中国はフィンテック大国になった。インドは伝統的な銀行より規制の緩い決済銀行免許を新設した。誰でもどこでも安価な決済サービスが受けられるよう、銀行以外の参入を促している。
一方、日本の金融庁は銀行の出資規制を緩め、銀行主導のフィンテック育成を優先する。ただ銀行はこの20年、通信コストが劇的に下がったにもかかわらず、手数料の下げは小幅にとどめてきた経緯がある。社会的利益のためには非銀行の参入で競争を促し、新しい技術が安価な金融サービスに結びつくことが大切だ。フィンテックで利用者目線の金融を構築できるかどうかが問われている。
(編集委員 太田康夫)
■今回のニッキィ
山田 さくらさん 主婦。今年の夏から自宅で外国人留学生のホームステイを受け入れている。「苦労も多いですが、中学生の娘にはよい経験になると思います」
山崎 友里江さん 広告会社勤務。最近、手首に付ける活動量計を使い始めた。「歩くことが増えました。毎晩の睡眠の質や時間がわかるようになったのも便利です」

[日本経済新聞夕刊2016年10月17日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は10月31日の予定です。

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