「物々交換」アプリが仲介 金銭やり取りなし
シェアリングエコノミーの裾野、広がる可能性
「子供の絵本ってけっこう高いんです。お金をかけず手に入れられて助かります」。神奈川県に住む育児休業中の会社員、佐々木絵里奈さん(36)は、物々交換アプリの使い勝手に満足げだ。フリマやオークションのように代金を振り込むといった面倒もないという。
バーコード読み取り
佐々木さんが絶賛するアプリは、在庫管理システムなどのHamee(ハミィ)が9月に配信を始めた「スピラル」だ。出品できるのは本やCD、DVD、ゲームソフト。本などのバーコードをアプリで読み込めば、簡単に手続きが済む。出品物を譲ってほしい利用者がいれば、アプリ内でメッセージをやりとりし、指定の住所に発送する。
こうして譲れば、自分が譲ってもらうときに使う「交換券」が手に入る。直接交換ではなくとも、1つ出品して1つ入手するという意味では物々交換と呼べる仕組みだ。「もらうだけ」の利用者を排除し、互いに交換し合う流れを強めてもいる。開発を主導したシステム開発部の山本洋平さんは、「どんなモノが欲しがられるかを考える過程も楽しんでほしい」と話す。
お金がからまないので、「価格交渉にとらわれないやりとりが活発になる」(山本さん)。出品した本を欲しがる人には、趣味が似ていると見込んで別の本も薦める――。そんなコミュニケーションがアプリを通じて盛り上がる可能性を感じると、山本さんは語る。
スマホゲームのドリコムも、4月に物々交換アプリ「クリップ」を正式公開した。利用者は出品物の写真や説明文を登録しておく。互いの出品物を気に入った利用者がいれば、アプリ内で受け渡し方法を相談して交換する。出品物は「ゲームや服、化粧品などが多いが、自動車さえある」(松江好洋・プロジェクトインベンション部長)。
ニーズが同時にかみ合う必要があるのは、こうした「直接交換」の弱み。そこで、「あなたの出品物に興味がある」と示す「いいね」ボタンを設け、互いに押し合った利用者をマッチングする仕組みを導入。「他にこんなのもあります」といったやりとりを通じ、交換が成立しやすくなるようにした。「金銭を尺度としない物々交換で、人と人のコミュニケーションを強めたい」と松江部長は意気込む。
シェア経済の発展に
物々交換はサービスにも広がる。ウェブサイト制作などのアイ・ティ・ネット(横浜市)はアプリ「デキルトレード」の配信を近く始める。利用者は「英語教えます」「観光案内します」といった「できること」を登録。ニーズがマッチした相手と、そのスキルを提供し合う。
小野良勝社長は「他人に提供できるほどのスキルが埋もれているケースはシニアや主婦を中心に多いはず」と話す。「ご近所さん」のスキルを掘り起こし、提供を促すことで地域社会の活性化にもつなげたい考えだ。
3社のアプリはいずれも無料。米アップルの端末向けだが、米グーグルの「アンドロイド」対応端末向けアプリも検討する。「お金を取引の尺度とすることで、損なわれているコミュニケーションがある」という問題意識も共通だ。普及次第では、人と人との豊かな関係づくりを後押しし、シェアリングエコノミーをさらに発展させるきっかけになるかもしれない。
(メディア戦略部 岩崎航)
[日本経済新聞夕刊2016年10月13日付]
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