朝カフェ芝居「オハヨウ劇場40分!」 銀座で再開
出勤前、おなかも心も満足
通勤の人々が慌ただしく行き交う朝の東京・銀座。ビル地下1階の「カフェ サンク」に入ると、20人ほどが静かに朝食をとっている。8時半、空いた席に1人の男性客が腰掛けたと思うと店員との会話劇が始まった。実は2人は俳優だ。カフェの常連客らが織りなす恋愛コメディー「『おはよう』は恋のおまじない。」(菅野臣太朗作・演出)を週3、4日上演している。
「やっぱり朝は『おはよう』って言ってもらいたいし、言いたいじゃないですか」。約40分の舞台はこんなセリフで幕を閉じる。その後、観客は一人ひとり、出演者からハイタッチで「行ってらっしゃい」と見送られる。「行ってきます」と応える人もいる。
朝食を食べながら見る短い芝居、名付けて「朝カフェ芝居」。主宰者であるミュージカル俳優の右近良之(53)が、2013年5月に東京・丸の内で「朝劇」と称して試みたのが始まりだ。当初は「忙しい出勤前に芝居なんて見てくれるだろうかと不安もあった」が、口コミで評判に。会場ビルが解体されるまでの1年半に、155公演に2500人以上を動員した。
その後は都内で単発の上演を続け、今年6月から銀座の「カフェ サンク」を拠点に「オハヨウ劇場40分!」の名称で再スタートをきった。これまでの約4カ月で35公演に500人が来場した。
右近は「かつて子供たちが駄菓子片手に公園に集った紙芝居のイメージが原点。カフェを舞台に、近くで働く人たちが顔を合わせる場をつくりたかった」と話す。終演後に走って出社する人もいれば、席に残って仕事の打ち合わせをする人も。上京して一人暮らしをする観客からは「東京に来て初めて朝食を食べた」「初めて『いってらっしゃい』と言ってもらった」とうれしい言葉をかけられた。
出演者も「通常の舞台では感じることのない充実感を得られる」と口をそろえる。公演の場は少しずつ広がり、丸の内で「朝劇」を手掛けたメンバーが現在、西新宿と下北沢のカフェで朝の芝居を開催中だ。地方の演劇関係者からも問い合わせが増えているという。「今後は外国人や英語を習うビジネスマン向けの早朝英語劇にも挑戦したい」と右近は意気込む。
(雄)
[日本経済新聞夕刊2016年10月12日付]
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