宮城・白石温麺(うーめん) 殿様の推しメン
つるり9センチ こもる慈愛
宮城県南部に位置する白石市は、仙台藩伊達家の重臣として知られる片倉氏が居城を構えた城下町だ。「白石温麺」はその地で長年にわたり愛されてきた。麺の長さは10センチに満たないが白石市民にとって思いやりを味わえる"ソウルフード"ともいえる食べ物だ。
「温麺」と書いて「うーめん」と読む。素麺(そうめん)と似ているが、小麦と塩と水だけで作り、油は使わない。その由来は江戸時代初期にまで遡る。「400年ほど前のことといわれていますが、胃が弱かった父親の身を案じた息子が油を使わない麺の作り方を旅の僧から教わり、父親に食べさせたところ元気を回復したということです」と奥州白石温麺協同組合の渋谷裕之事務局長(54)。
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その麺を当時の城主に献上したところ、城主が温かい思いやりの心に感心し「温麺」と名付けたとされる。当時、白石の周辺では小麦が栽培され、水運などを使って白石に集積。素麺も作られていた。そこに温かな心が加わり「温麺」に変わったというわけだ。
素麺とは素材のほかにも、麺が若干太めという違いがあるが、最大の違いは麺の長さだ。温麺の長さは約9センチ。由来にあるように病弱な人でも子どもでも食べやすい。白石では離乳食としても食べられているという。「赤ちゃんの時から食べているから、白石の食卓に温麺は欠かせない存在」と渋谷さんは笑う。
同組合直営店の「やまぶき亭」を訪ねた。同店には年間約2万人が訪れるというが、地元の人に交じって観光客の姿が目立つ。「客の7、8割は白石市以外。蔵王などへの観光で白石に立ち寄ったという人も多い」と店長の菅野義寛さん(52)。駐車場にも「横浜」「宇都宮」「新潟」などのナンバープレートが並ぶ。
メニューには「天ぷらうーめん」「みそうーめん」「山菜うーめん」などが写真入りで掲載されている。何にしようか迷っていると「初めての人にはまず『うーめん三昧』を薦めます」と菅野さんがアドバイス。冷たい温麺をざるそばのように通常のつゆのほか、ごまだれ、クルミだれで食べる。くせのないつるっとした食感に箸が進む。「湿度などその日の天候にあわせてゆで加減も工夫しています」と菅野さんはいう。
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白石市観光協会は温麺を食べられる店を「うーめんマップ」にまとめている。掲載している店は20店弱。各店が特徴を持ったメニューを競っている。きちみ製麺の直営店「光庵」は、製麺会社直営だけあって「手延べ」の温麺が自慢だ。
古くは手延べだけで作られていた温麺も、明治以降徐々に機械化が進み、同社の吉見光宣社長(60)によると戦後しばらくすると手延べは姿を消した。実は白石で先陣を切って機械化に取り組んだのが同社。それでも「のどごしや麺の光沢などは手延べにかなわない」と、復活を目指し、素麺など各地の産地に社員を派遣し、技の習得に当たらせた。古民家を再現した店内で味わう手延べの温麺はまた格別な味だ。
店独自の温麺を食べ歩けるのも産地ならでは。鶏ガラと野菜ベースのラーメンスープに温麺が入った「ラ・うーめん」は中華料理店「東天閣」の人気メニューだ。創業は1971年。ラーメンと温麺の組み合わせは20年ほど前に誕生した。「白石の中華料理店として地元の食材を取り入れたメニューができないか、と考えたようです」と同店の小室晃さん(38)はいう。
具材もチャーシュー、メンマなどラーメンそのまま。「ラーメンスープと相性はいいのか」と疑問に思うかもしれないが、観光客を中心に評判は上々だ。
白石市周辺では市民に親しまれる温麺だが、それ以外の地域では宮城県内といえども認知度はもうひとつ。仙台市民でも温麺のことは知っていても、あまり食べたことはないという人は多い。奥州白石温麺協同組合の理事長でもある吉見社長は「まずは仙台を攻略したい。試食会などを開催し味わってもらうことが大事」と戦略を練る。「その後は東京にもぜひ、攻め上りたいですね」と話していた。
「温麺」の読みはどうして「うーめん」となったのか。諸説あるようだが、殿様に献上した際に「うまい麺だ」と言われたのが、「うめー麺」に変わり、「うーめん」となったとされる。
奥州白石温麺協同組合では若い世代にも温麺をアピールしようと、宮城県産のマグロやホタテと合わせた「海鮮冷製うーめん」や、蔵王のチーズを使った「ピザうーめん」など様々な新レシピも提案している。名前の通り幅広い世代に「うめー」と思ってもらえるか注目だ。
(仙台支局長 川合知)
[日本経済新聞夕刊2016年10月11日付]
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