浜松ギョーザはキャベツたっぷり
あっさり ジュワッ 焼き絶妙
中華料理が源流だが日本で独自に進化を遂げたギョーザ(餃子)。世帯当たり購入金額が2年連続で日本一なのが浜松市だ。市内には老舗や新興チェーンのほか持ち帰り専門店が多く存在し、お気に入りの店に通いつめる住民も多い。野菜が多くてヘルシーなギョーザが日常に根付いている。
あっさり、ジューシーな焼きギョーザに、ゆでたモヤシを添える――。浜松ギョーザの基本形を作ったといわれるのが、1953年創業の「石松」だ。キャベツの甘みと地元産の豚肉を薄めの皮に包み、カリッと焼き上げる。多めの15個か20個入りならフライパンに沿って円形に並べて焼き上げ、真ん中の空きスペースにモヤシを盛りつける。
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本店のほか3店舗を構えるが、「祖父が浜松駅前に出していた屋台が源流」と社長の大隅純さん(38)は解説する。空きスペースがさびしくならないように付け合わせを研究してモヤシに行き着き「昭和30年代にはスタイルが確立した」。
浜松駅から南に3分ほどの「むつぎく」も62年創業の老舗だ。代表取締役の近藤昌子さん(73)は50年近くギョーザのタネを作り続けている。「仕入れたキャベツの状態で仕込み方を微妙に変えて、味を変えないようにしている」
キャベツと豚ひき肉を9対1の割合で混ぜ、ニンニクと調味料を加える。タネは一晩寝かして、昌子さん1人でも1日に2千個ほどのギョーザを包む。次男で代表取締役の孝弘さん(47)は外食大手で10年以上の経験を経て家業に戻ったが、「常連客は母の味を食べに来ているので仕込みには手は出さない」と話す。
昌子さんの亡夫は石松で修業した。市内の老舗では「喜慕里」なども創業者同士につながりがある。
今年春に浜松に転勤してきた記者の浜松ギョーザの第一印象は「あっさりしているが肉っぽさがもう少し欲しい」。ただ、食べ進めるとキャベツの甘みがクセになる。タレは店ごとに違い、ゆでたモヤシはちょうど良い口直しになる。メタボなので後ろめたいが、20個入りも1人で完食してしまう。
タネに白菜も使う宇都宮ギョーザは水ギョーザも多いが、キャベツで焼き主体の浜松ギョーザはより皮が薄く、軽い印象だ。
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老舗ではタネの調合やフライパンでの焼きを熟練した店員が担当するが、静岡県内を中心に49店舗を展開する中華ファミリーレストラン「五味八珍」は機械化と調理方法の標準化を進めている。一般的なラーメン店で使われる四角いプレートの焼き器にギョーザを円形に並べやすくするリングを開発、各店に導入した。
本社工場では1日20万~24万個のギョーザを生産、急速冷凍して店舗と外販先のスーパーに送る。営業部長の山本隆晴さん(42)は「浜松餃子と言えば五味八珍というイメージを作っていく」と意気込む。
浜松にギョーザが根付いた背景はいくつかある。地元の愛好家の集まりである浜松餃子学会の事務局長、大場豊さん(48)が指摘するのは「産地の近さ」だ。秋から春にかけて多くの店が愛知県田原市産のキャベツを仕入れる。愛知県はキャベツの生産量首位で、浜松から40キロメートルほどの田原市と、東隣の豊橋市が中心。また浜松市北部では良質の豚肉が生産されている。
工場が集積し、共働き家庭が多かった土地柄で、持ち帰りに適したギョーザが普及した。餃子学会の調べでは浜松市内にギョーザ店は約200店あり、焼きギョーザや生、冷凍で持ち帰りできる店も多い。
「ビワの木」のオーナー、林竹計さん(66)は「豚ひき肉やニンニクを多めにしている」と語る。焼きギョーザも「別に円形にする必要はない」。「浜太郎」では、「あさりと玉ねぎの餃子」や「桜えび餃子」など様々な種類のギョーザをそろえる。
浜松市は面積が全国で2番目に広い市で、目当てのギョーザ店を巡るのは一苦労だ。11月12日~13日に浜松駅から徒歩10分ほどのアクト通りで「浜松餃子まつり2016」が開かれる。浜松餃子学会が2年ぶりに開催するイベントで、前回は約30店が参加した。好みのギョーザに出合う場にピッタリかもしれない。
総務省の家計調査で世帯当たりのギョーザの年間購入額を見ると、2015年は浜松市が全国平均の2倍超の4646円で、宇都宮市の3981円を抑えて2年連続の首位だった。都道府県庁所在地と政令指定都市が対象の統計に浜松が入った08年以降の通算成績は4勝4敗と激しく争っている。
実は店舗での外食や冷凍ギョーザは家計調査では別項目に含まれるため、焼きギョーザか生での持ち帰りで日本一だ。浜松は弁当や総菜などの「調理食品」全般でも首位で、持ち帰り文化が根付いている。
(浜松支局長 剣持泰宏)
[日本経済新聞夕刊2016年10月4日付]
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