急な痛み、スマホで相談 医師がアドバイス
出張や旅先で
通院時間とれない
「出張中で疲れが出たのでしょう。安心してください」。都内で会社を経営する50代男性はスマホ越しに医師の話を聞き、胸をなで下ろした。中国への出張中、突然頭が痛み出した。ホテルの部屋でビデオ通話のアドバイスを聞き「海外でも日本の医師と話すことができてありがたかった」と振り返る。
男性が利用しているのは「ポケットドクター」の健康相談サービスだ。毎年の健康診断では血液検査で「要再検査」という判定が出ていたが「仕事が忙しく、病院に行く時間が取れなかった」。そこでポケットドクターを使い始めた。昼休みなどに健康診断の数値の読み取り方や気になることを相談している。
ポケットドクターを運営するMRTの馬場稔正社長は、突然の激しい腹痛で苦しんだ自身の体験からサービスを発案した。体を引きずるように近くのクリニックに行くと予約の人でいっぱい。たまらず、友人の医師にビデオ通話で腹部の様子を見せると「大事には至らないだろう」という言葉を受け取り、落ち着きを取り戻した。「この安心感を多くの人に広げられないか」と事業化を進めた。
小児科医が対応
0歳から15歳までの子供を対象とした「小児科オンライン」もある。利用時間は平日午後6~10時。多くの病院は夕方で閉まってしまう。同サービスを立ち上げたKids Public(東京・北)の代表で、小児科医の橋本直也氏は「仕事を終えた子連れのワーキングマザーが夜間の救急外来で1~2時間も待たされているという状況を変えたかった」と話す。
同様の相談ができる公共サービスとしては全国共通の番号「#8000」でつながる「小児救急電話相談」もあるが、電話による通話のみ。橋本氏は「小児科医が画像や動画を見れば、より的確なアドバイスが出せる」と強調する。小児科オンラインでは相談の記録を残しているので「前回は皮膚の発疹が出ていましたね」などとスムーズに相談ができる点も特徴だ。
スマホで簡単に医者と面会できるのは便利だが、健康相談サービスは医療行為ではない点は注意が必要だ。医師法によると一度も通院が伴わないことを前提とした遠隔サービスは医療行為として認められない。そのため健康相談サービスでは医師が病名を診断できず、薬の処方や保険適用もできない。
ただ最近では、初診は対面で受診することを前提として、スマホ越しで保険適用の医療を受けられるサービスも登場してきた。かつて遠隔医療は一部ケースを除き原則禁止とされてきたが、15年8月に厚生労働省が遠隔医療を事実上解禁するという通達を出したからだ。
ポケットドクターも16年4月から「かかりつけ医診療」を始めた。患者が希望し、医師が問題ないと判断できれば、スマホで再診が受けられる。
今後は大型の医療機関でも遠隔医療が広がる可能性もある。東京女子医科大学はIT(情報技術)ベンチャーのポート(東京・新宿)と高血圧患者の遠隔医療について検証を開始した。
スマホを使った医療サービスは今後ますます広がっていきそうだ。移動時間や待ち時間のない快適さを体験してみてはいかがだろうか。
(コンテンツ編集部 松元英樹)
[日本経済新聞夕刊2016年9月29日付]
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