「翻訳できない世界のことば」 異文化への畏敬の念

4月に初版1万部で発売。8月下旬までに6刷10万部。税抜き1600円。10月に同じ著者による「世界のことわざ」編を刊行する。
4月に初版1万部で発売。8月下旬までに6刷10万部。税抜き1600円。10月に同じ著者による「世界のことわざ」編を刊行する。

「イクトゥアルポク」。聞き慣れないこの言葉はイヌイット語で、意味は「だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること」。厳しい自然の中で来客を待ちわびるイヌイットが、わずかな物音や気配に反応して家を出たり入ったり。そわそわする様子が目に浮かぶ。

世界には、一言では訳せない特有の言葉がある。そうした言葉をイラストと文章で紹介した「翻訳できない世界のことば」(創元社)が人気だ。刊行4カ月で累計発行部数は10万部。「ほっこりする」と20~40歳代の女性を中心に読者を広げている。

バナナを食べる所要時間(2分くらい)を意味するマレー語の「ピサンザプラ」、トナカイが休憩なしで移動できる距離(約7.5キロ)を指すフィンランド語の「ポロンクセマ」など34言語の52語を収録。その国の文化や習慣、価値観に根ざす言葉の数々に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やネット書店では「異文化への理解や畏敬の念がおのずと芽ばえ育まれる」「世界は素敵(すてき)な言葉に溢(あふ)れている」などの感想が相次ぐ。

日本語からは「木漏れ日(木々の葉のすきまから射す日の光)」「積ん読(買ってきた本をほかのまだ読んでいない本といっしょに、読まずに積んでおくこと)」など4つの言葉が登場。改めて日本独特の言い回しであると認識したという読者も多い。

著者のエラ・フランシス・サンダースは様々な国で暮らした経験を持つ20代の女性作家兼イラストレーター。紀行文や写真を集めたサイト「MAPTIA」に投稿したエッセーをもとに、2014年に原著が米国で刊行されると米ニューヨーク・タイムズなどがベストセラーに選んだ。

「エッセーの時から興味を持っていた」という創元社の内貴麻美氏が、すぐに日本での版権を獲得。絵本作家の前田まゆみ氏が翻訳を手掛け、日本語の文字のデザインも原著に似せるなど雰囲気を損なわないよう配慮した。

SNSでは刊行直後から多くの書店が写真付きで紹介し、大手読書交流サイト「ブクログ」のランキングで1位を獲得するなど、口コミで人気が広がった。プレゼント需要も多いという。

(枝)

[日本経済新聞夕刊2016年9月28日付]

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