秋の花粉症、マスクや薬で防衛 果物やダニにも要注意
日本人の約2000万人が悩まされているとされ、国民病とまで呼ばれるのは春のスギ花粉症。だが、ほかにも様々な植物の花粉が1年中飛散している。スギ花粉症の人やアトピー性皮膚炎など、もともとアレルギー体質の人は、スギ以外の花粉でも症状が出やすいという。
今月がピーク
国立病院機構相模原病院(相模原市)では1965年から、病院の屋上で装置を据えて花粉量を定点観測している。そのデータによれば、イネ科のカモガヤやハルガヤなどは春秋に2つのピークがあり、キク科のブタクサやヨモギなどは8月前後から飛散し始め、9月にピークを迎える。
花粉の飛散状況・季節には地域差があるが、おおむね相模原と同様の傾向にあるという。また、ダニの活動が活発になるのは梅雨時だが、9月はその死骸が増加する。そのほか、カビの胞子も飛びやすくなる。夏に出たゴキブリの死骸やガの羽の粉も原因になる。
相模原病院臨床研究センター花粉症研究室長で耳鼻咽喉科医の石井豊太氏は「イネ科やキク科の花粉症の人は、スギ花粉症やダニやハウスダストによるアレルギーをあわせ持っていることが多い」という。「早めに対策を講じるためにも、自分がどのようなアレルゲン(アレルギーを起こす抗原物質)に対して陽性なのかを一度は調べておいたほうがいい」という。血液検査で、それぞれの抗原物質に対する抗体の有無や反応のしやすさが分かる。
免疫系の細胞が異物を認識して攻撃対象とすると、血液中に抗体が作られる。次に同じ抗原物質に出合うと、排除しようとして鼻水や涙、くしゃみが出る。免疫系が過剰に反応してしまうことをアレルギー症状という。
花粉にアレルギーのある人は、口腔(こうくう)アレルギー症候群にも注意が必要だ。果物がおいしい秋だが、ある種の果物や野菜の持つ抗原物質に反応する場合がある。果物や野菜の抗原物質の構造が花粉のものと似ており、食べた直後に、唇、舌、喉などに、かゆみやしびれ、むくみなどが生じることがある。
例えば、カバノキ科のハンノキやオオバヤシャブシ、シラカンバ(シラカバ)などの花粉症の人なら、リンゴやナシに注意しよう。ブタクサの花粉症なら、メロンやスイカ、バナナを食べて起きることがある。
つらい花粉症の治療だが、中心はマスクや抗アレルギー薬を飲むという対症療法になる。風邪をひかないよう注意をしたい。風邪で鼻の粘膜のバリア機能が弱くなると、抗原物質が入り込みやすくなるからだ。ストレスも避けたほうがいい。
舌下免疫療法も
一方、スギ花粉症には朗報もある。根本療法とされるアレルゲン免疫療法(滅感作療法)が大きく進化した。抗原物質を低濃度で体内に取り込み、徐々に濃度を上げて慣れさせる。過剰反応しないようにさせる。
20世紀初頭から皮下注射する方法はあったが、日本医科大学の大久保公裕教授らが、より安全でより簡便な方法を開発。2014年からスギ花粉から抽出した抗原エキスを口に含む「舌下免疫療法」を実用化した。対象は原則12歳以上。スギ花粉の場合、来春に備えるには遅くとも年内に始めなくてはいけない。花粉が飛ぶ1~5月に始めると、免疫反応が強く出過ぎる恐れがあるからだ。
1日1回、舌の下に2分ほどエキスを保った後に飲み込む。ごく少量から始め、2週間ほどかけて1回1ミリリットルまで増やしていく。エキスはグリセリンを含んでいるので、やや甘い。
臨床試験では、約2割で全く症状がなくなり、7割で症状が軽減。3年ほど継続した後にやめても数年間は効果が持続するとされる。極めてまれだが、口腔アレルギー症候群で、アナフィラキシーショックと呼ぶ急性の強いアレルギー反応を起こす危険性があり、きちんと関連学会の講習等を受けた医師のみが処方できる。
ダニアレルギーについても舌下免疫錠が登場した。今後、他の植物でも、舌下免疫療法用の様々な抗原物質の開発が進むと期待されている。
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免疫の仕組みに働きかける研究も
先進国で花粉症などのアレルギー疾患が急増する原因を説明する考え方の一つに「衛生仮説」がある。全ては説明できないものの、衛生環境が整うと、本来は病原体を標的にしていた免疫系細胞が、花粉やホコリなどを攻撃して症状が起きやすくなるという。
免疫の根本に働きかける治療法研究も進む。舌下免疫療法では過剰な免疫を抑える制御性T細胞(Tレグ)が増加する。Tレグは体内にもとからあり、飲み薬で増やせるという。Tレグ発見者の坂口志文・大阪大学特任教授は「花粉飛散の数カ月前から薬を飲んで増やし、季節が過ぎれば服薬をやめるのが理想的」と予防法開発に取り組む。
(ライター 塚崎 朝子)
[日経プラスワン2016年9月24日付]
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