パン、おいしく食べきるには 買って即冷凍
パンは買ってきた翌日ぐらいまではおいしく食べられても、日がたつにつれてパサつき、口当たりが悪くなる。なぜだろう。
パンをつくる小麦粉の主成分、デンプンは水を加えて約60度に熱すると消化しやすい性質に変わる。この現象を糊化(こか)と呼ぶ。しっとりもっちりしたおいしい食感を味わえるようになる理由なのだが、おいしさは長時間続かない。日本パン技術研究所(東京・江戸川)の井上好文所長に聞くと「パンは老化するんです」という。糊化したデンプンが再結晶化し、パサつき始めるのだ。
時間がたったパンをおいしく食べるにはどうすればいいか。2つの対処法がある。1つは老化を抑える保存をすること。もう1つは冷めたパンを温め直し、パンを若返らせる焼き方の工夫だ。
皮と中心の食感の差が大きいフランスパン(長さ約60センチ)で実験した。「焼き上がって約6時間たつと中心部から外側へ水分が移り、皮のパリッとした食感が消える」(井上さん)。長くおいしく食べるには難しいパンだ。
夕方に近所の人気店でフランスパンを買った。午前中に焼き上げ、店に並んでいたパンは外はカリカリ、中はしっとり。家でパンを2.5センチ幅(楕円形で縦約4センチ、横約5センチ)に切りそろえた。まずは保存。店でもらった保存袋に入れて常温で保管するものと、密封袋に入れてすぐに冷凍するものの2種類に分ける。「パンの老化は0度前後で進む。冷蔵庫に入れるのは絶対にやめよう」と井上さんから聞いたからだ。
トースターは予熱 温めは短時間で
温め直す時のコツは東京・丸の内の人気パン店「ポワン エ リーニュ」の店長、近藤優多さんに聞いた。同店では売っているパンごとに温める時間や方法を細かく書いた紙を配っている。「パンはすぐに水分が抜けるので温めは短時間で。トースターは必ず予熱し、どんなパンでも長くて2~3分にとどめる」。私はこれまであまり考えずに5分近くかけていた。
パンを買った翌朝に実験を開始。袋に入れて常温で置いたフランスパンの皮は軟らかく、ゴムみたいな食感に変わっていた。中から外へ水分が移ったようだ。自宅のトースター(1200ワット、260度)で2分予熱し、常温のものと、冷凍のものを解凍せずにそのまま2分間焼いた。食べ比べると、中心部の食感に明らかな違いがあった。
冷凍したものはたった2分でも中心部の温度が60度近くまで上がった。皮は買った当日のようにカリッとし、中はもっちりしている。一方、常温保存したものは軟らかかった皮がカリッとしたが、中のもっちり感が足りない。
冷凍保存でこれほどおいしさを維持できるとは思わなかった。これまで賞味期限がきたら冷凍庫に移して保存していたが、フランスパンは買った日に冷凍した方が良さそうだ。
常温保存のパン 水分が日々減少
日本パン技術研究所で食品の水分量を測る水分計を借り、時間がたつと水分量がどう変わるかを調べた。計測皿に5グラムのパン(フランスパンの中心部)を載せる。赤外電球で熱を加えてパンの水分を蒸発させ、重さの変化でパンに占める水分の比率を測る仕組みだ。買った日は41.8%。一晩袋に入れて常温保存したものは32.7%。2日後はさらに26.2%まで下がった。
一方、買った日に冷凍したものを3日後に測ると、買った時と同水準の42%だった。冷凍で水分移動が止まり、老化が抑えられたようだ。
念のため違う2店のフランスパンでも実験をしたが、冷凍したパンをそのまま予熱したトースターに入れて2分焼くのが一番おいしく食べられた。試しにアルミホイルで冷凍パンを包んでみた。我が家のトースターで2分予熱と2分焼く方法ではホイルを完全にかぶせると中心部は凍ったまま。ホイルを片側にふわっとかぶせる方法でも中はまだ冷たかった。
食パン(スーパーで買った6枚切り)でも水分量の変化を測った。常温で3日保存したパンは40%台前半で、買った日とほとんど変わらず。冷凍保存も買った日と同水準だった。ただ、数値は変わらなかったが、常温保存のものは多少パサつきが気になった。
トースターの火力、パンの密度や大きさによって焼き時間は変わってくる。冷凍パンを3分焼いても温度が上がらず冷たい場合は「ホイルに包んで焼く時間を延ばせば水分蒸発を抑えながら温められる」と近藤さんからは助言をもらった。
冷凍の威力 実感
パンは焼きたてが一番おいしい印象が強いが、焼きたてはデンプンを構成するアミロース分子が不安定なので食感が良くない。食パンは焼き上がって「1~2時間後が本当においしい」(井上さん)。パンの冷凍技術は進化している。粗熱がとれた最高においしい状態のパンを急速冷凍し、通信販売している店が増えた。サクサク感がすぐに失われるクロワッサンは冷凍取り寄せに向くそうだ。
これまでパンのネット通販は味が落ちた状態のものが届くような気がして、少し懐疑的だった。今回の実験で冷凍の威力を実感。旅の途中に沖縄の人気店で食べたアオサ入りバゲットの味が忘れられない。冷凍で取り寄せられるか聞いてみよう。
(坂下曜子)
[日経プラスワン2016年9月24日付]
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