漫画『逃げるは恥だが役に立つ』 契約結婚、時代映す
海野つなみ著
結婚に踏み切った理由は恋愛感情ではなく経済的な事情。いわゆる「契約結婚」した男女2人の奇妙な同居生活を描く漫画「逃げるは恥だが役に立つ」(海野つなみ著、講談社)が注目を集めている。世相や時代の気分を映した人物像と物語が好評で、7巻までの累計発行部数は電子版を含め約80万部に上る。
主人公の森山みくり(25)は大学院を出たが就職試験に失敗。派遣社員になるものの契約を切られる。とりあえず父親の紹介で独身男性、津崎平匡(36)の家で家事代行サービスを始め居心地の良さを感じるようになるが、両親が田舎に引っ越して、この仕事も続けられない。
働き口を失いたくない森山は、津崎に「就職としての結婚」を提案する。女性との交際経験がない草食男子の津崎は「仕事としての結婚ならば面倒なことはしなくていい」「扶養手当など受けられて得」と了承。2人は結婚後も雇用主と従業員の関係を維持して同居する、という筋立てだ。
一見、常識からずれたような主人公の言動に、SNS(交流サイト)では女性を中心に共感する声が続出。連載する漫画誌「Kiss」の担当編集者、鎌倉ひなみ氏は「高学歴の女子大生が就職せずに主婦になりたいという志向を強める時代。大恋愛でなくても一緒にいて嫌な人でなければ就職先として結婚していい、という時代の気分に作品が合った」と分析する。
気分を表しているのはこの2人だけではない。仕事を中心に生きてきて、気がつけば未婚のまま50代に突入した女性、イケメンで女性にもてるが結婚そのものに魅力を感じない男性……。「自分たちの周りに普通にいるけど深く描かれてこなかった人たち」(鎌倉氏)が続々と登場し、物語に絡む。生涯未婚者の急増などが話題になるなか、共感の輪を広げて支持を伸ばす。
同作を原作としたテレビドラマが10月から放送予定で、さらに人気が高まりそうだ。講談社はドラマ化による売り上げ増を見込んで発表直前に各巻を重版したが、各地の書店で売り切れた。
作者の海野氏は1989年にデビュー。同作で初めて単行本の発刊が5巻を超え、講談社漫画賞を受賞。不遇の時期にも描き続け、ついに代表作を生み出した。
(諸)
[日本経済新聞夕刊2016年9月14日付]
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