二階堂和美さん 声の百変化、ビッグバンドと共演
変幻自在、自由奔放な歌いっぷりが魅力のシンガー・ソングライター。8年前から構想を温めてきたビッグバンドとの共演を実現した。1930~40年代に広まった楽しく踊るスイングジャズに乗り、歌手として一段とパワーアップした姿を見せる。「探し続けたのはこれだった」と言うほどバンドとは相思相愛。現代には貴重なスイング黄金期のダイナミックな演奏がよみがえる。
白いスパンコールのドレスに身を包み、手をひらひらさせながら鮮やかなステップを踏む。体をくねらせ、愛嬌(あいきょう)たっぷりのしぐさ。総勢21人のフルバンドがど派手なアンサンブルを響かせても一歩も引かず、管楽器の音色を口まねしたスキャットを縦横に駆使して渡り合う。
今年1月、東京・鶯谷のライブハウスでジェントル・フォレスト・ジャズ・バンドと初共演を果たした。30年代の米ニューヨーク、ハーレムのダンスホールが現代の下町に復活したかのように豪華で、熱気あふれるステージを繰り広げた。
「ニカさんって、キャブ・キャロウェイだ。初めて出合った時、そう思った」。同バンドのリーダー・指揮者を務めるジェントル久保田は振り返る。キャロウェイは30年代から米国で国民的人気を博した黒人のジャズ歌手・バンドリーダー。ユーモアたっぷりのダンス、機関銃のようにまくし立てるスキャットと艶のある美声で、エンターテイナーの最高峰と呼ばれた。
「(キャロウェイは)映画『ブルース・ブラザース』で見たくらい。情報は少ないけれど、インスピレーションを与えてくれた」と二階堂。身ぶりを交え、全身で表現する姿勢に刺激を受けたようだ。「地元の広島で開くライブはベース、ピアノとのトリオ編成が多いけれど、最近はギターを持つのをやめ、かなり体を動かしながら歌っている」
共演のレパートリーは大半が過去に書いた自作曲。これまでギター弾き語りや小編成で演奏してきたが、編曲を練り、入念なリハーサルを重ねて生まれ変わった。「もともとシンガー・ソングライターというより『歌手が曲も書いてます』という意識。歌に集中してまだまだ自分の引き出しがあるんだと気付かされた」
野太い声でほえたかと思えば、少女のようなかれんなささやきも。強弱緩急は自在で「声の百変化」とでもいえそうな多才ぶりが光る。久保田は「ビッグバンドは音圧がすごいから歌手によっては音を抑える場合も多い。でもニカさんはこちらがフルパワーでも全く引けを取らない」と驚く。アニメ映画「かぐや姫の物語」の主題歌などで、最近は静かに歌うイメージもあった二階堂だが「今回は野性が解放されたのかも」とおどける。
当初はライブだけの予定だったが、あまりの相性の良さに「もったいないな」とスタジオに入って新録音。全11曲のアルバムにまとめた「GOTTA-NI」を出したばかりだ。11月23日から名古屋、横浜、広島、岡山で公演する。二階堂は「これほどの開放感を味わって先が心配なほど。こんなすごいエンタメがあるんだって、お茶の間まで広めたい」と顔をほころばせる。
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法話と音楽に共通点
実家は広島県大竹市の浄土真宗の寺で、現役僧侶でもある。日々のお勤め、法話などを通じて人の生死と向き合う。音楽活動でもいのちをテーマにすることが増えてきた。「法話と音楽には共通点がある。自分なりに解釈して伝える時、経験があって実感がこもればよりよく伝わる。間違っていても訂正・修正しながら身についていく」
昨年7月に出したシングル「伝える花」は原爆が投下された広島の被爆地に咲いた一輪のカンナがモチーフになった。「70年以上草木も生えないと言われた焦土に、その年の秋、花が咲いた。いのちの力強さと未来へと向かう意思、希望を込めた」と話す。
2013年には長女を出産。新アルバムに収めた新曲「いとしい気持ち」はかけがえのない「娘や家族と過ごす大切な時間」を歌った。何気ない日常を慈しみ、淡い感情を端正な言葉でつづる。人生の泣き笑いが重なった素朴な表現が芯となって、幅広い聴き手を引き付ける。
(大阪・文化担当 多田明)
[日本経済新聞夕刊2016年9月14日付]
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