鉄道模型500景 雪景色など迫真の自然を再現し撮影写真家、金盛正樹

片栗粉の雪を降らせる
片栗粉の雪を降らせる

猛スピードですれ違う新幹線、雪の降る山中や夕暮れの海辺を走る特急列車。150分の1スケールのNゲージ模型で実物さながらの鉄道風景をつくりだし、自然現象の表現にこだわってカメラに収める。これまで約500の風景をつくっては撮り、撮っては壊すを続けて20年余り。作品は専門誌や模型のカタログなどに提供している。

神戸で生まれ育った。小学生の頃、日本から姿を消していくSLに憧れ、鉄道好きになった。小遣いをためてNゲージで遊び始めたのは5年生のとき。写真は中学に入ってからだ。親のカメラを借りて自転車に乗り、貨物列車を撮ったり近所の車両工場に出掛けたりしていた。

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人々の生活の一部

大学進学に際し、小学生から続けていたサッカーの道に進むか、カメラの勉強をするか悩んだ。結局写真に関わる仕事に就きたいと思い、大学では画像工学を専攻。とはいえ鉄道写真では食えないと思い、卒業後は東京都内の写真スタジオに就職して広告用の商品や人物を主に撮っていた。

それでも鉄道写真展にはよく出掛けていた。鉄道写真といっても大自然をメーンにしたものから車両の機械的な魅力に迫るものまで様々だ。自分は単なる輸送手段ではなく、人々の生活の一部として描かれる鉄道の表情にひかれていた。

鉄道模型の撮影を始めたのは就職して5年目のとき。自分ならではの仕事を見つけようと、先輩の紹介で模型メーカーと取引のあるデザイン会社を訪れた。試しに撮ってみてと言われ、カタログ用の商品写真と雪景色の中を走る列車という2つの課題をもらった。

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流し撮りに苦労

何か工夫をと、商品写真は照明に凝ってバックの色にグラデーションをかけ、品物を映えるようにした。雪の場面は、発泡スチロールより粒子が細かいスチレンボードを使って地面にした。そして夕景にするため、屋外で実際の太陽光を当てて本物の空をバックに撮影した。それが認められ、次第に模型撮影の仕事が増えていった。

ちょうどバブル崩壊から数年たったころで、本業の広告写真の仕事は減少傾向にあった。1996年、28歳のとき思い切って会社を退職。フリーとなって鉄道模型カメラマンの道に進んだ。都内に知人と共同でスタジオを借り、自らジオラマを製作。鉄道風景の再現に挑んでいる。

なかでも表現に苦労した風景の撮影方法を紹介しよう。

流し撮りの逆の手法でスピード感を表現

高速で走る新幹線。実物では「流し撮り」と言って列車の動きに合わせてカメラを左右に動かしながら撮影することで、列車にピントが合い背景が流れるような手法で撮る。しかしNゲージを相手にこれはできない。動く小さな被写体にピントを合わせて接写するのは極めて難しいためだ。

逆転の発想で、カメラとメーンの車両を固定し、線路や対向車両、背景を素早く動かして撮ってみた。するとメーンの新幹線ははっきりと捉えられる一方、線路や背景は流れるように、高速ですれ違う対向車両はテールランプが尾を引くように撮ることができた。この方法でSLを撮れば、大きな車輪が回転する躍動感も表現できる。

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写真展を巡回開催

雪は当初、砂糖や塩で試したが、ライトなどの熱でベトベトと溶け扱いづらい。いまは片栗粉を使っている。粉雪のようにサラサラと積もった様子は実物のようだ。線路周辺の状態をリアルにするため、いったん地面全体に片栗粉の雪を降らせた後、模型のラッセル車を走らせて除雪してから被写体の車両を置く。撮影中は茶こしで片栗粉を降らせている。

金盛正樹さん

夕暮れの海を再現するのには透明のビニールシートを使う。手で丸めながらシワをつけると、表面が波を打つようになる。これを広げて背景にし、逆光で撮影する。本物のようにみせるため、レンズで複雑に反射して写真に残る多角形の光(ゴースト)をわざと入れることもある。

このほかホームを尻すぼみにして遠近感を強めたり、縮尺の大きい人形や建物を使って生き生きとした人々のやり取りを目立たせたりしている。

来年1月まで、Nゲージの鉄道写真展を全国各地のキヤノンギャラリーで巡回開催中だ。まだ模型で再現されたことのない風景をカメラの中に求めていきたい。

(かなもり・まさき=写真家)

[日本経済新聞朝刊2016年9月14日付]

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