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仮想現実という言葉を目にすることが増えたような気がするわ。最先端の技術らしいけど、いったいどういうものなのかな。

仮想現実をテーマに、山本裕子さん(30)と鈴木朋さん(35)が村山恵一編集委員の話を聞いた。

仮想現実ってどういうものですか。

「仮想現実とは『バーチャルリアリティー(VR)』の日本語訳です。360度の3次元(3D)画像やCG(コンピューターグラフィックス)を使ってつくり出した環境を、あたかも現実世界であるかのように認識させる技術のことをいいます。一般的には、ゴーグルのように目の前を覆うヘッドマウントディスプレー(HMD)に映像を表示します。頭を上下左右に動かすと連動して画像も変わり、自分がそこに飛び込んだような没入感を得られるのが特徴です」

「2014年、VR機器を開発するベンチャー企業の米オキュラスVRを米フェイスブックが20億ドル(約2000億円)の巨額で買収すると決め、注目を集めました。今年になってオキュラスはゲームなどに使うHMDを発売したほか、韓国のサムスン電子や、台湾の電機大手、宏達国際電子(HTC)もVR機器を商品化しています。10月にはソニー傘下のソニー・インタラクティブエンタテインメントがゲーム機につなぐHMDを発売する予定です」

「スマートフォン(スマホ)に取り付けて気軽にVRを楽しめる簡易型アダプターも1000円程度で買えます。一般の人の手に届くようになり、今年は『VR元年』といわれています」

拡張現実という言葉もあるようですが。

「拡張現実(オーグメンテッドリアリティー=AR)は現実の光景にさまざまなデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。スマホ用ゲームの『ポケモンGO』はスマホのカメラと位置情報を使い、目の前にモンスターが現れたような画像をつくり、世界的なヒットとなりました」

なぜいまVRやARが注目されているのですか。

「VRを想定したHMDが1960年代末に試作されるなど、基礎的な技術や概念は以前から存在しました。最近になって脚光を浴びるようになった背景には、スマホの普及に伴う技術の進歩があります。解像度の高いディスプレーやデータ処理の半導体、傾きや動きを検知するセンサー、メモリーなど、スマホで使う部品はVRやARにも活用できるものが少なくありません。スマホが高機能になるにつれて部品も進化し、性能のいいVRやARの機器を実現しやすくなったのです」

「もうひとつの理由は、応用範囲が広く、新たなビジネスの土台として成長を期待できることです。米国の調査会社によると、ハードウエア、ソフトウエアを含めたVR・AR関連産業の世界市場は、16年の52億ドルから20年の1620億ドルへと急拡大が予想されています。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者は『VRは次のプラットフォーム(基盤)になる』と訴えます」

ゲームやエンターテインメント以外にも応用できるのですか。

「現在はゲームやビデオ映像を楽しむ用途が中心ですが、いろいろな分野で活用が始まっています。不動産会社が家の間取りをVRで見せたり、小売店での商品選びに使ったりすることが可能です。航空会社が飛行機の整備士のトレーニングに使う例も出てきました。医療や教育、ものづくりの現場など、アイデア次第で利用の裾野が広がりそうです」

課題はないのですか。

「利用中に気分が悪くなる『VR酔い』の症状が出ることがあります。見ている画像と体感のずれが原因とされます。機器の性能向上によって改善することが見込めますが、休みなく使い続けるのは避けるべきだとの声があります。年齢制限など安全な利用の呼びかけは関連企業の責任でしょう」

「日本でもブームになったポケモンGOでは、歩きながら遊んだり車を運転しながら遊んだりして事故になる問題が起きました。リアルとデジタルの融合は、これまでにない製品やサービスを創出する可能性を秘めますが、新たに生じる課題に気を配ることも欠かせません」

ちょっとウンチク


ルールや制度に知恵絞る必要
 2012年に米グーグルが発表した眼鏡型の端末「グーグルグラス」は、AR活用の代表例だ。声で操作し、天気予報や道案内などのデジタル情報が目の前の現実空間に浮かぶように表示される。
 「うつむいてスマホの画面をみることが究極の未来といえるのか」。共同創業者セルゲイ・ブリン氏は、人が自然なスタイルで情報を得たり発したりする道具と位置づけた。SFのような体験をもたらすと話題になった。
 しかし、本格的な販売にいたる前に事業は軌道修正を迫られる。「グーグルグラスをかけて車を運転すると注意散漫になり危ない」との批判が飛び出し、「カメラ機能でひそかに画像を撮られればプライバシーの侵害だ」と懸念する声も高まったのが背景だ。
 AR、VRは多くの産業を変革し、暮らしや仕事に便利さ、面白さをもたらす潜在力がある。ただ、技術の進化に身を委ねるだけの受け身の姿勢ではいけない。使いこなすルールや制度にも知恵を絞ってこそ、技術は生きる。
(編集委員 村山恵一)

今回のニッキィ


山本 裕子さん 金融機関勤務。6年前から登山を始め、年に3~4回登る。「北アルプスの槍ケ岳が好きです。今月はマレーシアのキナバル山に挑戦します」
鈴木 朋さん 医療機器メーカー勤務。ダイビングから料理まで幅広い趣味をもつ。「最近は日本文化が学べる四季折々の食材を生かした和食に凝っています」
[日本経済新聞夕刊2016年9月12日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は9月26日の予定です。

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