青森、屋台メシは生姜味噌おでん
船客迎えた温かさ 今も
暑い夏が過ぎると、季節は秋へと向かう。朝晩、少し肌寒く感じるようになると、恋しくなるのがおでんだ。全国各地におでんはあるが、青森市では、すりおろした生姜(しょうが)を入れた味噌だれをかけて食べる「生姜味噌おでん」が主流だ。冷えた体を生姜が内側からほんわかと温めてくれる。
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まず訪れたのは、青森市一番の歓楽街、本町にある居酒屋「浜まち」。女将の小倉加乃子さん(60)が、卵、焼きちくわ、ネマガリタケ、こんにゃく、極薄のさつま揚げの5種類の具を皿に盛り、とろとろの生姜味噌だれをたっぷりかけて出してくれた。
「煮込みの味付けは昆布だしと岩塩だけ。味噌の味とぶつからないよう、しょうゆは使わない」と小倉さん。一方、たれは昆布だしで赤白の合わせ味噌に砂糖を入れて煮詰め、冷ました後にすりおろした生姜を加える。「生姜は日本酒に合うよう多めにしている」
残暑で「まだ熱々のおでんはちょっと」という向きには、同じく本町の居酒屋「なら屋」がお薦めだ。同店では7~9月、特別に冷たいおでんをメニューに掲げている。大根、こんにゃく、卵など7種の具とだし汁、生姜味噌だれは熱いおでんと同じだが、器は陶器でなく透明のガラス皿に盛って清涼感を出している。
店主の奈良洋さん(49)は「夏は熱いおでんと冷やしおでんの注文がほぼ半々」と話す。同店ではおでんの持ち帰りもできる。
青森駅に近い古川市場(青森魚菜センター)の裏手では間口1間(約1.8メートル)、奥行き2~3間ほどの屋台風の総菜店が並び、店頭の鍋でおでんを煮込み、魚や野菜などのおかず類と一緒に販売している。
奈良総菜店でその場で食べたいと頼むと、店主の奈良悦子さん(62)が鍋から注文した具を取って皿に入れ、生姜味噌だれをかけてくれた。煮干しだしとしょうゆの黒い汁がよく具に染みこんでいる。魚菜センターは丼ご飯に好きな刺し身や総菜を自由に載せて食べる「のっけ丼」目当ての観光客でにぎわっているが、奈良総菜店は地元客が中心。それだけに庶民的な味といえるだろう。
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青森おでんに明確な基準はない。生姜味噌だれで食べることを除けば、具や味付けは自由だ。おでんの具の代表格である大根、こんにゃく、卵は青森でも人気だ。だが、青森おでん特有の具も味わいたい。
その筆頭が地元で「大角天」と呼ぶ極薄さつま揚げだ。縦10センチ横20センチほどの大型の長方形で、4~5片に切って串に刺して煮込む。このほか、青森特産のネマガリタケやツブ貝も人気。焼きちくわは、ぼたんの花びらのような焼き目を入れているのが特徴だ。
青森市の飲食店や食品メーカーなどでつくる「青森おでんの会」の岩田満会長(60)によると、生姜味噌おでんは戦後、青森駅前に次々にうまれた屋台が発祥だ。ある屋台の女将が、寒い中、青函連絡船を待つ客の体を少しでも温めようと、生姜入りの味噌だれをかけて出したのが喜ばれ、ほかの屋台や飲食店、家庭に広がっていったという。ただ「その女将が誰なのか、名前はわかっていない」(岩田会長)。
青森おでんの会に加盟する飲食店や居酒屋は約15店だが、それ以外でもメニューに掲げる飲食店は多い。岩田会長は「おでんは酒のさかなというイメージがあるが、青森おでんは外出先で手軽に食べるファストフードでもある」と話す。
「浜まち」女将の小倉さんは「子どものころは、駄菓子屋でおでんを売っていて、おやつとしてよく買って食べた」と振り返る。
現在でも、神社のお祭りでは生姜味噌おでんの露店が欠かせない。青森市の海水浴場では、冷えた体を温めるのにおでんが人気だ。青森市の代表的な観光地である八甲田地区の酸ケ湯温泉や萱野高原の売店でもおでんが売られている。
観光客向けには、生姜味噌おでんの缶詰が青森県観光物産館「アスパム」内の土産物店などで販売されている。ホタテの団子入りと県の地鶏「青森シャモロック」の団子入りの2種類あり、鍋に空けて温めるか缶ごと湯煎するだけで手軽に青森生姜味噌おでんを楽しめる。
おでんの歴史は室町時代の焼き豆腐に味噌を付けた「田楽」に始まるとされる。江戸時代になると、具材を煮込んで食べるようになり、現在に近い姿になったという。その後、全国に広がっていく中で、それぞれの地方独特の食べ方が発達したようだ。
「全国ご当地おでんサミット」が9月9~11日、青森市の青森県観光物産館「アスパム」の海側広場で開かれる。北は北海道小樽市から南は沖縄県まで全国9地区のおでんが集結。各地の地酒も振る舞われ、酒とおでんの味比べをすることができる。
(青森支局長 森晋也)
[日本経済新聞夕刊2016年9月6日付]
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