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ゴキブリ退治 なぜ液体洗剤が効くの?

2016/9/6 日本経済新聞 プラスワン

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■ゴキブリ退治 なぜ液体洗剤が効くの?

スーちゃん 夜にのどがかわいたから、台所で水をのもうとしたら、大きなゴキブリが出てきちゃったよぉ。キャー。思わずそばにあった液体洗剤(せんざい)をかけたら、しばらくじたばして死んじゃった。どうしてかな。

■体の空気穴がふさがって窒息するんだ

森羅万象博士より ゴキブリに液体洗剤をかけると、最初はあばれるけど、すぐに動かなくなってしまう。洗剤の中に何か悪い成分が入っているように思ってしまうけど、それはまちがいだ。

実は呼吸ができなくなって窒息(ちっそく)して死んでいるんだ。生物は生きていくために呼吸して、空気中の酸素を取りこみ、体の中にたまった二酸化炭素をはき出している。

昆虫(こんちゅう)のゴキブリは人間やイヌなどのほ乳類や鳥類、は虫類とは呼吸の仕組みがちがう。人間は口や鼻から空気をすいこみ、気管や気管支を通って肺のおくにある「肺ほう」と呼ぶ小さなふくろに届けられる。肺ほうでは、毛細血管で血液に酸素を取りこみ、不要な二酸化炭素を出す。

これに対し、昆虫は「気門」という小さな穴から空気を取り入れている。バッタやセミ、チョウをつかまえて体の横をよく観察してみよう。小さな穴がついているのに気づくと思うよ。これが気門だ。気門はふつう昆虫の胸の部分の両側に2対、おなかの部分に8対ついている。気門は20あるわけだ。

昆虫で肺にあたるのが「気管」だ。気門からつながっている細い管で、昆虫の体じゅうにトンネルのようにはりめぐらされている。気門からすいこんだ空気中の酸素を体内に取り入れて二酸化炭素を出す。

気門が水にぬれてふさがると、呼吸ができなくなって死んでしまう。このため、多くの昆虫の体には気門のまわりに細かい毛がはえていて、水をはじいて気管に入らないようにしている。

ゴキブリの場合は体の表面に油がついている。だから、ゴキブリは「アブラムシ」と呼ぶ地域もあるくらい油で光ってギラギラしている。水をかけてもはじくから、ゴキブリは平気でいられる。

洗剤はなぜ気門の中に入りこめるのかな。これは洗剤にふくまれる界面(かいめん)活性剤(かっせいざい)という物質がかかわっている。

例えば、洗剤でお皿を洗うと、油よごれがきれい落ちるよね。これは界面活性剤に水と油がくっつくようにする働きがあるからなんだ。ふつうは水と油を混ぜても、しばらくすると2つの層に分かれてしまうけど、洗剤を入れてかきまわすと白くにごった液体になる。水と油が混ざったからだよ。

ゴキブリの気門から入った洗剤は気管の中まで広がってしまい、空気が取りこめなくなる。ゴキブリは気門がいくつかふさがっても、他の気門から空気を取り入れて呼吸ができる。でも、洗剤が体全体にかかると、気門がすべてふさがってしまうから、ゴキブリは窒息してしまうんだ。

洗剤でなくても油となじみやすい液体をかければ、ゴキブリは気門がふさがってしまい、呼吸ができなくて死ぬ。サラダ油やオリーブ油といった食用油、化粧品(けしょうひん)の乳液をかけても同じ結果になるよ。ゴキブリが死ぬのは不思議に思えるけど、ちゃんとした理由があるんだ。

■赤くない血 呼吸が影響

博士からひとこと ゴキブリをつぶしたときに赤い血が流れないのを見て不思議に思ったことはないかな。昆虫の体にも血は流れているけど、ふつうは無色、うすい緑色や黄色をしている。実は、昆虫の血が赤くないのは呼吸の仕組みと関係している。
ほ乳類や鳥類、魚類は切ると赤い血が出る。ヘビやトカゲなどのは虫類の血も赤い。血液の中に「赤血球」があるからだ。赤血球が肺で取りこんだ酸素を体じゅうの細胞(さいぼう)に運ぶ。昆虫は気管がはりめぐらされているため、空気中の酸素が全身の細胞に直接届く。赤血球を必要としていないんだ。

(取材協力=長島孝行・東京農業大学教授、原田哲夫・高知大学教授)

[日経プラスワン2016年9月3日付]

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