社名変更は何のため?

イチ子お姉さん 自動車メーカーの富士重工業が来年4月から会社の名前をブランドに合わせて「SUBARU」にするそうよ。社名変更(こう)ってなぜするのかしら。
からすけ 最近は「~HD(ホールディングス)」のような会社名が急に増えた気がする。変えたくなるブームってあるのかな。

強いブランド 世界で有利

イチ子 社名って会社の事業内容が変化したり、客のイメージを良くしようとしたりして、変えることが多いようね。

からすけ 富士重工業はどうして「SUBARU」に社名を変えるのかな。

イチ子 自動車事業のブランド、SUBARUは世界で有名ね。でもそれだけじゃなくて、航空機や宇宙関連機器、農業機械まで幅広く造っている会社なの。だから自動車以外の分野でも世界で売っていこうとすると、知名度の高い社名にした方が有利と判断したようだわ。

からすけ 社名になじみはないけど、ブランドは有名っていうこと、結構あるかも。

イチ子 ブランド名を社名にして成功した例は多いわ。今のソニーは1958年に社名の「東京通信工業」から電化製品のブランド名に変えたの。欧(おう)米での知名度を高めるため、カタカナの名前にしたそうよ。ヒット商品や世界での売れ行きにつながって一躍(やく)有名になったため、あやかっていろんな会社が横文字のブランド名を社名にするブームが起きたの。

からすけ 大きなメーカーなら、世界を相手にしたいよね。他にはどんなパターンがあるの?

カタカナ名 今や多数派

イチ子 多くの人が呼びやすいよう、省(しょう)略する例ね。東芝は「東京芝浦電気」という正式名から、皆が呼ぶ略称(しょう)になったのよ。ローマ字で短くする場合も多いわ。例えばTDKは83年に「東京電気化学工業」から変わったわ。当時は法務省が外国文字を正式な社名として使うのは認めていなかったの。でも通称のローマ字社名が出てきたのよ。2002年には規則を改正してローマ字を使ってよくなると、どんどん増えたの。

からすけ 呼びやすくなる一方で、伝統や重厚感のある名前が短くなるのはどこかさみしい気がするな。

イチ子 カタカナやローマ字の社名が珍(めずら)しかった頃は目立ったわ。でも今はアルファベット1文字違いの会社なんてことがあるから紛らわしいわね。どんな事業をしているのかわかりにくい社名もある。東京証券取引所の一部上場企業のうち、カタカナとローマ字のみの社名は約44%もあるのよ。

からすけ いつごろから、どんな理由で社名変更は増えてきたんだろう。

イチ子 戦後いくつかブームがあったの。最初は1952年。三井、三菱、住友といった旧財閥(ばつ)の商号を社名に戻した企業が増えたわ。戦後、GHQ(連合国軍総司令部)は旧財閥の商号を使うのを禁止していたの。でも52年のサンフランシスコ平和条約の発効で日本の主権が回復し、禁止令が解かれたのよ。

からすけ 旧財閥系の社名はこの時に増えたんだね。2回目はソニー・ブームとして、その後は?

イチ子 70年代前半に消費者へのイメージアップ戦略での社名変更が増えたわ。例えば建設会社が上場する時にそれまでの「○○組」から「○○建設」に変えた例ね。第4の波は80年代。1つの会社がいろんな事業をするようになったために社名を変えた動きよ。「○○工業」とか「□□化学」の「工業」「化学」という業種を外した例ね。

からすけ 特定の業種の企業という印象をなくして、いろんな事業に挑(ちょう)戦していると伝えるねらいだね。

イチ子 そうね。第5の波は80年代後半のCI(コーポレートアイデンティティー、キーワード)戦略の広がりよ。社名やロゴマークを見直して会社のイメージをまとめて訴えるもの。第6の波は2000年代後半からの持ち株会社(キーワード)ブームだわ。「HD」「グループ本社」の付く社名が増えているの。

<キーワード>
CI 企業のイメージを統一し社名やロゴ、ブランドやスローガンなどを通じて社会に印象付ける活動。
持ち株会社 グループの会社の株式を持ち、経営の中核となる会社。事業持ち株会社と純粋持ち株会社がある。

からすけ いろんなブームがあったんだね。

イチ子 社名は企業の中身を表すもの。名前を変えることで取り組む分野が広がったり、社員のやる気が高まったり、業績が伸びることだってあるのね。

■貴人と同名、昔は避けた

東京都立桜修館中等教育学校の荒川美奈子先生の話 現在の日本では、活躍(やく)したスポーツ選手や芸能人、漫(まん)画の主人公にあやかった名前を付けることが多くみられます。しかし、古代の日本では自分の名前に天皇や皇后(こうごう)、有力な貴族と同じ名前を用いない規定や、同じ漢字や同じ読みの字をひかえる習慣がありました。有力な貴族の子供が成人して名前が定まると、同じ名前を持つ中・下級の貴族は名前を改めなければなりません。名前と権力は密接に結びついていたのです。
名前への権力の行使は、罪人の制裁でもありました。奈良時代の終わり、称徳天皇の行動をいさめた和気清麻呂は、天皇の怒(いか)りにふれ別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)と改名され、配流(はいる)されました。その後、名誉(よ)を回復した清麻呂は元の名前に戻りました。会社にとって大切な名前を改めることは、新たな目標への姿勢を示すことではないでしょうか。
今週のニュースなテストの答え 問1=火星、問2=(2)弾劾

[日経プラスワン2016年9月3日付]

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