猿の見る夢 桐野夏生著
定年前の男を突き落とす
主人公は、定年前の会社役員。愛人を確保し、資産も欲望も老後の見通しも人並み以上にリッチ。だが、それらの維持にともなう苦労も人並み以上。「勝ち組」にしてはグチが多い。
初老の思春期を謳歌する男。その不安定な日常がおかしな夢占い師の出現から、崩れだす。破滅に突き落とす徹底ぶりこそ桐野節の凄(すご)みだ。「怖いものみたさ」で読みすすめる。
主人公の境遇が「平均的」かどうかはさておき「こんな男はどこにでもいる」。優柔不断の小心なエゴイスト。身につまされる共通体験の1つや2つは必ず見つかるだろう。それを女性作家によって暴きだされたことが、本作の底深い恐怖なのだ。続編を暗示するような不穏な結末も薄気味悪い。
★★★★
(評論家 野崎六助)
[日本経済新聞夕刊2016年9月1日付]
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…
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