台風被害から20年 富士山「まなびの森」再生のいま
自然の力生かす植樹で「理想の混交林」へ
富士山を楽しむのは頂上をめざす登山だけではない。5合目以下の樹林帯の散策を楽しむ人は多く、関東からもハイカーや家族連れが訪れる。その広大で豊かな森が1996年9月の台風17号で甚大な被害を受けた。それから20年。木が倒れ荒れ地となった森がどこまで回復しているのか。住友林業が植樹や管理に取り組む富士山「まなびの森」(静岡県富士宮市)で再生の現状をみた。
太陽光を浴びて元気良く育つヒメシャラやホオノキなどが生き生きと茂っている。案内してくれた「まなびの森」管理人の鈴木雅義さんが台風被害1年後の同じ場所の写真をみせてくれたが、「本当に同じ場所ですか」と思わず聞いたほど、辺りは変貌していた。住友林業は創立50周年記念で森づくりを通じた社会貢献を掲げ、被害地のうち約90ヘクタールで国有林の再生に取り組んでいる。
植樹の思想はできるだけ自然の力を生かす「ナチュールゲメス」(合自然)だ。倒木を片付けたり、下草を刈ったりする人工的な管理を極力減らし森の再生をめざす。植樹の苗木は富士山麓固有の種子から育てたものに限定した。ブナやミズナラ、ケヤキ、カエデ、ヤマボウシ、ウラジロモミなどの樹種をそれぞれ10~20本程度ずつ植える方式で、針葉樹と広葉樹の高木、低木、さらに草花も一緒に育つ理想の混交林をつくろうとしている。
森の再生には100年以上かかるといわれ、20年はまだ道半ば。しかし、ヒメシャラやホオノキなど成長の早い樹木の中で、将来、森の主になるブナやケヤキも少しずつ成長している。驚くのは植栽以外の多様な樹木や草花が育っている点だ。荒れ地からススキやイタドリなどの草原になり、ミツマタ、サンショウなどの低木が生えてくる。「ヒノキなど高木が多かったときに土中に眠っていたり、鳥が運んできたりした、あらゆる種子に芽生えのチャンスがやってきた」(鈴木さん)わけだ。
まなびの森の特徴は植栽林だけでなく、台風被害を受けなかったブナやケヤキなど広葉樹中心の天然林とヒノキなどの人工林がある点だ。一巡すれば、長い時間をかけて、草原から高木へ変わっていく森の一生を学べる。樹齢数百年のブナなど巨木の森は明るく、道は落ち葉でフカフカ。すがすがしい緑の散策を存分に楽しめる。
入山には事前許可が必要 ホームページから手続き
国有林のため入山には事前の許可が必要。住友林業のホームページから手続きできる。現地には植林のボランティアだけでなく、一般の人も利用できる環境教育の活動拠点「フォレストアーク」がある。
近くに樹木が鋳型となり年輪を残した「溶岩樹型」や樹齢800年の「大ヒノキ」などを展示する裾野市立富士山資料館があり、仏教伝来前に芽生えた「神代杉」や江戸時代の大噴火を生き抜いたカラマツなどが興味深い。
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