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7月の参院選で「改憲勢力」が議席の3分の2以上を占めたわね。憲法改正を問う国民投票の実施も可能になったそうだけど、いったいどうなるの?

憲法改正について、深沢郁子さん(43)と小田育美さん(52)が大石格編集委員の話を聞いた。

7月の参院選の結果、衆院に続き、参院でも「改憲勢力」が3分の2以上の議席を占めましたね。

「与党の自民・公明、野党でも憲法改正に前向きな日本維新の会などに所属する議員の合計が参院で初めて3分の2に達しました。若者を中心に保守志向の有権者が増えつつあることの反映といってよいでしょう。ただ、改憲に賛成する有権者が圧倒的多数になったとみるのは行き過ぎです。選挙制度の影響もあります」

「衆院は1996年の選挙から小選挙区制が導入されました。最近4回の衆院選はすべて、選挙後の与党が3分の2以上の議席を占めました。参院も1票の格差是正の結果、1人区が増えて実質的に小選挙区制に近くなり、第1党が大勝しやすくなりました」

安倍晋三首相は改憲に意欲的ですね。すぐ実現するのですか?

「日本国憲法の96条は改正の手続きとして、衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成で国民に改憲を発議し、国民投票で過半数の賛成を必要とすると定めています。形のうえでは国民投票実施が可能になったわけですが、実際にはそう簡単なことではありません」

「改憲に必要な国民投票の手続きを定めた国民投票法は2007年に制定されました。当時、野党第1党だった民主党が主張した『18歳投票権』などを取り入れ、世論の反発を最小限に抑えました。現在の野党第1党の民進党は共産党などとの共闘路線を採り、安倍政権との対立姿勢を強めています。野党の反対を力ずくで押し切る形で発議して、国民投票で多数の賛成を得られるのか。自民党内にも疑問視する声があります。最初の国民投票の結果が否決だった場合、改憲を再び政治日程に載せるのは不可能との見方もあります」

秋の臨時国会ですぐ発議ではないのですね。

「国民投票法は発議から実際の投票実施まで60~180日の期間を置くと定めています。初めてのときは最長の『半年後』が与野党の暗黙の合意です。安倍首相は在任中の改憲が悲願ですが、いまの自民党の党則だと18年9月には総裁任期が切れてしまいます。向こう2年間に国民投票まで終えるのはハードルが高い。それで、改憲に取り組むに先立ち、まずは総裁3選を可能にする党則改正という動きが出てきているのでしょう」

「3選されれば任期は21年まであります。19年夏の参院選のタイミングに合わせて衆院を解散し、改憲の国民投票とのトリプル選挙にする。国民の愛国心が高揚する20年夏の東京五輪の直前に国民投票をもってくる。さまざまな選択肢が考えられます」

改正されるとすれば、どういう内容になりそうですか。

「現時点で有力視されているのは『緊急事態条項』を新設する案です。大地震のような非常時には国会の議決がなくても法律と同じ効力を持つ政令を政府が制定できるようにする、というもので、海外に類似例が多数あります。選挙の実施が困難な場合は国会議員の任期を自動的に延長できる規定を設けることも考えられます」

「ただ、自民党が12年につくった改憲草案は『内乱等による社会秩序の混乱』も緊急事態に含めています。国会前で大規模デモが起きただけで政府は何でもできるということになりかねません。さすがに行き過ぎでしょう」

「参院の選挙区を都道府県単位にすると憲法に書き込んではどうかという意見もあります。1票の格差の是正のため、7月の参院選では鳥取県と島根県、徳島県と高知県をそれぞれ1つの選挙区にする『合区』が行われましたが、選挙への関心が薄れ、高知県は投票率が全国最低でした」

戦争放棄をうたった9条はどうなりますか。

「安倍政権が憲法解釈を見直した結果、集団的自衛権を限定的に行使できるようになりました。安保の観点でいえば、9条を抜本的に書き直す必要性は薄らいでいます。護憲派の多くは『9条死守』ですから、安倍政権もいきなり9条改正とは考えていません」

ちょっとウンチク


改憲のカギ握る「人の縁」
 いまの憲法は形式でいえば大日本帝国憲法を改正したものだが、実際にはGHQ(連合国軍総司令部)主導でできたことは周知のことだ。それ以来、間もなく70年になるが、いちども改正されたことはない。旧憲法も不磨の大典だったので、日本は世界でも珍しい改憲ゼロ国家だ。
 もっとも、だから必ず改憲しなくてはならない、というわけでもあるまい。日本の伝統文化の話になるとオンリーワンを強調したがる保守派の大物たちが、憲法となると急に「米国は……」「ドイツは……」とグローバルスタンダードを振りかざすさまは何やらこそばゆい。護憲だ改憲だと角突き合わせずにもう少しゆとりをもって憲法論議ができないものか。
 国民投票法を制定した際、現場担当者だった自民党の船田元、民進党の枝野幸男の両氏は徹底的に議論した。ふたりは同じ高校の先輩後輩だ。国家の大事も最後は人の縁で決まる。いまの安倍政権にそんな人脈はあるのか。力ずくでは改憲はできないし、すべきではない。
(編集委員 大石格)

今回のニッキィ


小田 育美さん 団体役員。アガサ・クリスティーなど海外ミステリーを中心に読書を楽しむ。「子どもに読み聞かせたのをきっかけに、絵本も好きになりました」
深沢 郁子さん 主婦。炊飯器を使わずに土鍋でご飯を炊いている。「不便さも楽しむ気持ちで始めてみたら、かえって短時間でふっくらおいしく炊けています」
[日本経済新聞夕刊2016年8月29日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は9月12日の予定です。

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