『心やすらぐ仏像なぞり描き』 女性つかむ
田中ひろみ著
仏像の絵姿を写す「写仏」の指南書「心やすらぐ仏像なぞり描き」(池田書店)が売れている。昨秋の刊行以来、着実に版を重ね現在11刷り7万部。今夏にはシリーズ第2弾も刊行され、併せて約12万部のヒットとなっている。
著者はカルチャーセンターの講師のほか、奈良市観光大使も務めるイラストレーター。「イケメン」の阿修羅像や「美人」の吉祥天立像など38体のイラストに仏像の特徴や鑑賞のポイントを添え、それぞれ見開きで紹介している。
出版社による企画は、通販サイトで写仏のプログラムが人気を博していたのがきっかけだった。2010年前後からの「仏像女子」の増加の流れに、昨今の塗り絵ブームも重なりニーズをつかめると判断した。「硬い印象となりがちな写仏を親しみやすい内容に編集した」と編集部の仲田恵理子氏は言う。
何気ないイラストとの印象も受けるが、実は工夫がある。「なぞりやすいようイラストの描線の色を薄くし、親しみやすさを狙ったデフォルメを施した」(仲田氏)。安置する寺の地域も、奈良や京都に偏りすぎないよう考慮した。
2月から「購入の後押しを狙い、筆ペンを特典として付け始めた」(野口英之・営業部長)のも効いた。複数の書店の入り口などでの展開がかない、春先から売れ行きに目に見えて角度が付いたという。6月には矢継ぎ早に、切り口を変えた第2弾「国宝仏像なぞり描き」も刊行。仏像の収録数への問い合わせが多かったため、58体に増やした。
読者からは「気持ちが落ち着く」といった声がやはり多い。第2弾を購入したという精神科医の40代男性に聞くと「写仏に没頭することで、過去の失敗や将来への不安感が軽くなる。患者さんに勧めようかとも思う」とのこと。
「上手下手は関係ない」(仲田氏)。なぞる線に心の状態が反映される写仏は、自身を見詰め直す機会になる。仏道修行の気分が味わえ、心も整えられるとなれば、一種の「御利益」と言えるかもしれない。
(岸)
[日本経済新聞夕刊2016年8月24日付]
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