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劇団新派、復活への幕開き 月乃助が緑郎襲名

2016/8/22付 日本経済新聞 夕刊

劇団新派が俳優陣を拡充して人気回復を目指している。歌舞伎から移籍した市川月乃助が9月、人間国宝だった名優、喜多村緑郎の二代目を襲名。新人もデビューし、話題を集める。

「初代は新派を象徴した女形。男役の自分がその名を頂くことには悩んだ。しかしいまの新派は全盛期より公演の場が少ないのが実情。男役として劇団再興の一翼を担うことが自分の道と思う」。47歳の月乃助は襲名を控え、新派俳優として生きる覚悟を語る。

襲名披露の「九月新派特別公演」は9月1~11日に東京・新橋演舞場、同17~25日に大阪松竹座で開かれる。水谷八重子や波乃久里子ら新派メンバーのほか、歌舞伎の尾上松也、市川猿弥、市川春猿らが参加。また松也の妹、春本由香が新加入する。「口上」のほか、新派の名作である川口松太郎作「振袖纏(ふりそでまとい)」、北條秀司作「深川年増」、泉鏡花作「婦(おんな)系図」を上演する。

「婦系図」は今回、初代緑郎が衣装や所作について記した演出資料をもとに上演する。スリからドイツ語学者に転身した早瀬主税の、恋人の芸者と恩師との間で揺れ動く心情が見どころ。「人間の善悪や心の機微をずぶとく描いた魅力的な戯曲。初代の演出をしっかり舞台に表現したい」と月乃助は意気込む。

■源流は明治時代

明治時代、江戸期に演劇の中心だった歌舞伎とは異なる新たな現代劇として、政治的主張の強い「壮士芝居」や「書生芝居」が生まれた。「旧派」と位置づけられた歌舞伎に対するジャンルとして「新派」と呼ばれるようになる。そのなかでも、政治性よりも芸術性を追求する一派の中心にいたのが初代緑郎だった。第2次世界大戦後、複数の劇団が結集して「劇団新派」が発足し、現在に至る。

様式美を重視する歌舞伎に対し、リアルな演出で遊女や芸者らの境遇を表現して男女の情を描き出してきたのが特徴だ。初代緑郎の弟子で女形の花柳章太郎、女優として芸を引き継いだ初代水谷八重子を経て、いまはその長女の二代目八重子と、十七代目中村勘三郎の長女である波乃久里子を二枚看板に活動する。

1950~60年代の全盛期は新橋演舞場などの大劇場で毎月公演を開いていたが、初代緑郎や章太郎ら名優を相次いで亡くし、客足が遠のいた。近年は中規模劇場での公演が中心で、公演回数も限られる。女優の二枚看板に対して、主役級の男役の層が薄く、歌舞伎などから客演を招くことが多い。人気回復に向け、俳優陣の拡充が課題だった。

月乃助は三代目市川猿之助(現・猿翁)のもとで長らく歌舞伎の修業を積んできた。「小さい頃から時代劇好きだった」といい、一般家庭から国立劇場の歌舞伎俳優研修を経て88年に初舞台を踏む。スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」や「新・三国志」では主役も演じた。新派へは2011年の初参加から出演を重ね、共演した久里子らの強いラブコールを受けて今年1月、正式に移籍を果たした。

23歳の新人、春本由香のデビューも話題を呼ぶ。歌舞伎の故尾上松助を父に持つが、祖父と母は新派俳優。八重子の部屋子として本格的な修業に入る。八重子は「まずは新派の基礎を身につけて、それからは自由奔放に新しい風を入れていってもらいたい。新派はもともと色々な人が集まってできた演劇。基礎を勉強をしながら、ミュージカルやほかのお芝居にも出て行ってほしい」と期待を寄せる。

お練りで笑顔を見せる(左から)春本由香、月乃助、水谷八重子、波乃久里子(7月、浅草寺)

■新しい風に期待

月乃助は「師匠も移籍について『ブラボー』と言って喜んでくれた。スーパー歌舞伎を生み出した師匠のように、新派でも現代や近未来を舞台にした『スーパー新派』をやってみたい。究極の目標は新橋演舞場で年間12カ月連続公演ができるようになること」と言う。

新派の歴史に詳しい演劇評論家の大笹吉雄氏は「世代交代の時期を迎え、二代目緑郎にはこれからの新派を引っ張ること、ほかの中堅メンバーにはもっと前に出てくることを期待したい。俳優を充実させる一方で、かつては現代劇のジャンルだったことを再認識して、名作の継承と同時に新作をもっと上演することを望みたい」と話している。

(文化部 小山雄嗣)

[日本経済新聞夕刊2016年8月22日付]

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