こだわりの家、身近に 施工会社が顧客と建築家つなぐ

2016/8/20

暮らしの知恵

家を建てるなら、デザインや設計が優れた建築家に依頼したい――そんな希望を持つ人と建築家を、施工会社がつなぐ動きが広がってきた。橋渡しのしくみを上手に活用すれば、人生最大の買い物と言われるマイホーム造りで、仕上がりや費用面の満足度を高められそうだ。

田畑が点在する高松市郊外の分譲地。20ほどある区画の1つに、焦げ茶色の外観が際立つ1軒が建つ。建築家が設計したモデルハウスだ。住宅施工のセンコー産業(高松市)が力を入れる分譲開発の一例だ。

ここでは建築家の作品の実物を、実際の分譲地で見ることができる。見学者は周囲の風景との調和も見極めつつ、自宅設計の参考にできる。気に入ったデザインを手掛けた建築家への設計依頼も可能だ。同社は市内4カ所の分譲地で同様のモデルハウスを設置、集客にも生かす。

建築家が設計した家で、カーテンなしでも外からの目を気にせず過ごす一家(高松市)

「カーテンが不要で、スッキリした造りが快適」と語るのは、その区画に木造2階建てを新築した公務員の男性(47)。昨年12月、妻と子供2人の家族4人で入居した。中庭を囲んで北にリビング、南に和室、西にキッチンを配置。「ロの字」の間取りが特徴の家は、兵庫県西宮市の建築家、谷ノ口義弘氏(46)が手掛けた。

設計にあたり(1)外部の目が気にならない(2)両親らがゆっくり泊まれるよう和室とリビングを離す(3)充実した収納――を希望した。外周部は小窓に統一し、中庭側に大きな窓や吹き抜けを採用、「外は閉じて、中庭に向けて開くイメージにした」(谷ノ口氏)。一家は分譲地巡りで谷ノ口氏の作品に出合い、営業担当者を仲介役に打ち合わせを重ねた。

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家造りのスタート地点となる設計を建築家に頼む場合、作品の模型や施工例の写真を手掛かりに探す例が多い。個別に依頼すると、実際に建築する施工会社との間でズレが生じたり、着手金などの費用が予想より膨らんだりするなど、後からトラブルになるケースがある。

今回分譲した区画の購入者が建築家に設計を依頼した場合、同社が計画段階から関わるので円滑な施工につながる。正式契約前の建築家変更やキャンセルによる追加費用は発生しない。

実際の作品を顧客に直接アピールできるため、建築家も協力的だ。オンリーワン住宅ながら「業界で中の上くらいの価格帯」(同社)で提供できるという。

ASJは専用スタジオで、施主と建築家らの接点を設けるイベントを開いている(大阪市北区)

全国的なネットワーク「アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)」(東京・港)を利用する方法もある。全国195の工務店・建設業者が専用のスタジオ(拠点)を運営し、登録する2700人以上の建築家と施主を結びつけるしくみだ。

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大阪・梅田のスタジオでは阿佐建築工務(大阪府高槻市)が年4、5回、複数の建築家を集めて建築家展を開き、施主との出会いの場を用意する。参加は予約不要で、来場者は建築家と直接やりとりができる。ASJに会員登録(現在は無料)すれば、ASJに登録する建築家からのプラン提案、仕様の仮決め、コスト確認などを期間・回数の制限なく受けられる。

希望のヒアリングや土地の現地調査を経て、建築家が設計案を提示する。建築家の旅費はASJが負担するので、好みの建築家が遠隔地にいても頼みやすい。正式契約すると、工事費に対してあらかじめ定めた率の報酬で建築家が請け負い、設計と現場監理で計画通りに仕上げていく。

ASJは2人の建築家からコンペ形式で提案を受ける仕組みも用意。画一的な造りを望まない人におすすめだ。スタジオを運営する工務店が施主と建築家の間に入ることで「提案を断ったり、修正を頼んだり、直接だと言いにくいことも伝えやすい」(阿佐建築工務の秋実秀吉取締役)。

建築家との家造りは、好みや価値観などの相性がカギを握る。満足できるマイホームを手に入れるため、提案内容に加え、実績や条件といった情報を幅広く集めて判断するなど、手間暇をかける価値がありそうだ。

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■じっくり話し合い重ねる
 建築家に設計を依頼する家造りは、「選ぶ」というより「一緒に造る」感覚の持ち主になじむ手法だ。提案や施工内容について綿密なコミュニケーションは欠かせない。希望や理想を確実に伝えるために時間を掛けて話し合いを重ねよう。

(高松支局 深野尚孝)

[日本経済新聞夕刊2016年8月17日付]

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