筑波の福来みかん 夏の名脇役
麺や菓子 爽やかな酸味
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つくば観光コンベンション協会などは2005年春から「つくば福来らーめん紀行」を始めた。ラーメン激戦区のつくば市で、福来みかんを使った新顔のラーメンを作り名を広めようと市内の人気店舗が提供。今年は1月と5月に実施し、8月は「塩」を共通テーマに展開中だ。10月も開く。
飲食店街、天久保地区。東京都心を結ぶつくばエクスプレス(TX)の開業でつくば駅周辺が栄え、かつてのにぎわいが減った。この街の一角にある「麺や 松辰」で福来みかんを使ったラーメンが食べられると聞き、足を運んだ。
8月中に提供するのは「冷福来塩煮干混蕎麦」という、特製塩だれを使った冷やし混ぜそばだ。冷凍保存した福来みかんの陳皮を砕き、煮干しや魚介類の粉、梅昆布茶などに混ぜた。細麺の至る所に陳皮のオレンジ色の粒が見られる。
強力粉を使った細麺は歯応えがあり、食べ進むと福来みかんの爽やかな香りが増す。タマネギや青ジソなど様々な野菜をトッピング。福来みかんの香りと混ざり、夏らしいさっぱりとした味わいだ。途中で羅臼昆布のスープで割ると、また違った味が楽しめる。
店長の大塚剛さん(39)は居酒屋経営の経験を生かして和風の味つけにした。「みかんの香りが鼻に抜ける感覚で、爽やかな夏らしい味にした」と話す。
「東池袋大勝軒 うさぎ家」ではバターに陳皮を入れた。食べる際に溶かして麺に絡めるとまろやかな味わい。福来みかんの苦みをうまく消した。
「つけめん・らーめん活龍本店」は麺生地に練り込んだ。店舗の運営会社、天辺ダッシュカンパニー代表取締役の芝山健一さん(33)は「自社で製麺所を持つからこそ作れる」と話す。ハマグリだけでダシを取り、塩だれに混ぜた。福来みかんの陳皮を混ぜたコシのある麺はかむほどに味と香りが増し、磯の香りにマッチする。
これらのラーメンは8月限定だが、通年で購入できる福来みかんの加工食品も増えた。しっかりした酸味や香りを生かしている。
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筑波山ろくにある平石商店は「筑波山ご当地シャーベット ふくれ」を販売している。福来みかんの果実は可食部が小さく種も多いため材料に使うのは難しかったが、熊本県の企業への製造委託で克服、果汁を約30%配合した。従業員の平石雅子さん(50)は「せっかくのおいしい福来みかんを何とか材料に使えないかと考えた」と話す。
スプーンを刺したらアイスクリームのように軟らかい。グレープフルーツに似たほんのりとした甘さだ。地元の農家や家庭で育てた福来みかんを調達。発酵しやすいため皮をむいたらすぐに果実を冷凍保存する。
平石商店は福来みかんの陳皮を使った七味トウガラシも製造・販売する。ゴマやノリなどを特定の割合で配合した。ピリッとした辛さにみかんの香りがあう。筑波山での七味の歴史は古く、同商店は約50年前に販売を開始した。他にも神橋亭の「みよこの七味」などがよく知られる。
福来みかんは収穫量も少なく食材への利用はあまり進まなかった。ここ数年で肌荒れ防止などの効果がある機能性成分フラボノイドが豊富に含まれることが分かり、和菓子や日本酒などにも応用が広がっている。
5月につくば市で開かれた主要7カ国(G7)科学技術相会合では、大臣らに福来みかんラーメン約300杯が振る舞われた。また市内の小学生が福来みかんの皮をむき、給食でそのラーメンを食べる食育活動に取り組むなど、地域に広げるための試みが進む。
観光コンベンション協会の本間亮太さん(31)は「福来みかんのラーメンなどを特産品としてもっと普及させ、地域への誘客につなげたい」と意気込む。
茨城県つくば市によると、筑波山地域はミカン栽培の北限地として知られる。日光がふんだんに注がれる山の斜面などが栽培に適する。福来みかんは日本固有のミカン科「タチバナ」の一種だ。古事記、常陸風土記に「不老長寿のかぐの実」と記述されるなど古くから栽培し、江戸時代から陳皮が漢方薬に広く使われ始めた。
収穫量が少ないのが課題で「筑波福来みかん保存会」は苗木を住民に提供して自宅の庭などで育ててもらい、将来の安定供給をめざす取り組みを進めている。
(つくば支局長 山本優)
[日本経済新聞夕刊2016年8月16日付]
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