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最近、金の価格が大きく動いていると聞いたわ。金への投資にも少し興味があるけれど、金価格はどういう理由で変動するのかな。

金価格について、山田英理子さん(50)と荒川美紀さん(47)が志田富雄編集委員の話を聞いた。

金価格はこれまでどう動いてきましたか。

「金の国際価格は1960年代まで1トロイオンス(約31.1グラム)35ドルで固定されていました。米国政府がその比率でドル紙幣と金を交換すると保証していたからです。しかし、米国のインフレや財政赤字でドルの信用が低下し、多くの国が持っていたドルを金と交換しようとしたため、71年に当時のニクソン米大統領がドルと金の交換停止を宣言し、価格が変動するようになりました。現在はニューヨーク市場の先物価格が指標になっています」

「2度の石油ショックによるインフレを経て、80年には800ドル台まで値上がりしました。90年代までは安い時代が続きましたが、2008年に1000ドルを突破。『リーマン・ショック』で600ドル台まで下がった後、世界的な金融緩和を背景に、11年には1900ドル強の史上最高値を付けました。その後、米国経済の回復で昨年、米連邦準備理事会(FRB)が9年半ぶりの利上げに踏み切ると、昨年末には1040ドル台まで下がりました」

「しかし今年に入って、米国経済が思ったほど回復していないという見方が広がり、金価格は再び上昇し始めました。6月に英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利すると、世界経済の混乱への不安から、1370ドルを超える水準まで値上がりしたのです」

金価格はどういう要因で変動するのですか。

「金もモノですから基本的に需要と供給の関係で決まります。金鉱山での採掘で新たに生産される金は世界全体で年間3000トン強ほどです。需要は、工業用途は少なく、多くは投資が目的です。インドなどのアジア地域では宝飾品も資産の意味合いが強いのです。原油などの商品と違い、金は通貨の顔も持ちます。金の値上がりは、その分ドルの価値が低下するということですから、ドルの魅力や信用が低下する時に金価格が上昇することになります」

「逆にドルの魅力が高まれば金価格は下落します。リーマン・ショック後に一時、金価格が大きく下落したのは、あらゆる商品価格が大きく下落し、投資資金が比較的安全性の高い米国債などに流れたことが原因でした」

「日本国内の金の取引価格は、国際市場のドル価格をグラム単位で円換算したものとほぼ同じになります。国際価格が同じなら円高・ドル安になるほど円建ての価格は下がり、円安・ドル高になれば上がります。通常、ドルの価値が下がる(ドル安)ときは金のドル建て価格が上がり、ドルの価値が上がる(ドル高)ときは金のドル建て価格が下がるので、ドル建て国際価格の変動は円相場の変動と相殺されることが多くなるわけです。このため、円建ての金価格は比較的安定しているといえます」

金に投資するメリットとデメリットを教えてください。

「通貨の価値が下がると金価格が上がるので、銀行預金などに比べてインフレに強いことが第1のメリットです。さらに、多くの場合、株価や債券価格、為替相場とは異なる値動きをします。英国民投票のときのように世界中で株価が大きく下がっても、金価格が上昇することはしばしばあります。このため、資産の一部を金で持つと、資産全体の価格変動リスクを低くする効果があるといわれています」

「デメリットは利子や配当がまったくないことです。価格が上昇しないと利益は出ません。ただ、今のような超低金利ではあまりデメリットとはいえないかもしれませんね。金の延べ棒(投資用地金)や金貨を自宅で保管していると盗難リスクもありますが、最近は金価格に連動する上場投資信託(ETF)を証券会社の口座で買うこともできます」

これから金価格はどうなりますか?

「将来の相場を予想するのは難しいのですが、米国経済や世界経済の混乱を予想させるような出来事、ドル安を連想させるニュースがあれば、金価格は上昇しやすいといえるでしょう。逆に、米国経済が好調だという見方が広がれば、下落しやすいことになります」

ちょっとウンチク


中銀も保有、米が最多の8000トン
 金の調査機関の推定で、これまで人類が産出した金の総量は18万トン以上になる。携帯電話などの部品に使われる金も多くはリサイクル利用されるため、この累計産出量は「地上在庫」と呼ばれる。
 2014年時点の内訳は宝飾品の形で存在するものが約8万7000トンと半分近くを占める。各国の中央銀行や国際通貨基金(IMF)が持つ金も3万トン強ある。そのうち8000トンを超す米国の保有量が最も多く、3000トン台のドイツが2番目だ。近年では中国、ロシアといった新興国が保有量を増やし、日本の保有量(約765トン)を抜いた。
 ニューヨーク連邦準備銀行の地下金庫など米国には各国から預かっている金も多くある。冷戦終結で旧ソ連の脅威が後退したドイツでは「大切な金はなるべく自国で保管すべきではないか」との声が強まり、中央銀行のドイツ連邦銀行は13年1月、米国とフランスに保管している保有金のうち674トン(現在の価格でおよそ3兆円)を20年末までにフランクフルトにある連銀金庫に移すと発表した。
(編集委員 志田富雄)

今回のニッキィ


山田 英理子さん 情報サービス会社勤務。話題のお店やスポットを同僚たちと訪ね歩いている。「最近のトレンドや、お店独自の工夫がいろいろ勉強になります」
荒川 美紀さん 幼稚園教諭。4月から大学で心理学などを勉強しているほか、最近は乗馬も始めた。「時間は自分でつくるもの。常に何か目標を掲げています」
[日本経済新聞夕刊2016年8月8日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は8月22日の予定です。

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