ドーピング、なぜダメなの?

イチ子お姉さん リオ五輪が始まったわね。ロシアが国家ぐるみで禁止薬物を使ったというドーピング問題で、たくさんの選手が参加できなくなったのよ。
からすけ ドーピングって、なぜ薬物を使うのかな。悪いことをして記録を伸ばそうとしたってこと? そんなことができるのが不思議だよ。

競技の公平欠く/健康にも害

イチ子 からすけが好きな選手が、持久力を高める薬を飲んだ相手に負けちゃったらどう思う?

からすけ いつも通り戦って負けるのより悔(くや)しいし、不公平で許せない。

イチ子 そうだよね。ドーピングは薬物の効果で競(きょう)技力を上げようとすることなの。公平さがなくなるだけでなく、薬物の副作用が健康をむしばむから禁止しているのよ。

からすけ そうなんだ。ドーピングっていつからあるのかな?

イチ子 紀元前の古代ギリシャ時代の五輪からあったらしいわ。アフリカの民族が戦う際に「ドプ」という酒を飲んで士気を高めたのが語源なんだって。違(い)反の記録として残る最古のドーピングは近代五輪より前、1865年のオランダの水泳選手ね。

からすけ そんなに昔からあるんだ。

イチ子 初めは闘(とう)争心を高める効果がある興奮剤(ざい)の使用が多かったわ。1928年に国際陸上競技連盟(国際陸連)が初めて禁止薬物を決めたけど、検(けん)査については決まりがなかったの。60年のローマ五輪で自転車の選手が興奮剤を使って競技中に死んだのを機に、ドーピング対策が課題になったわ。五輪では68年から検査が始まったのよ。

からすけ よく聞くのは、筋肉を増強するたんぱく同化ステロイドだっけ。

イチ子 筋肉をつける一方で肝(かん)臓の機能を下げ、ホルモンのバランスを崩すので出産・妊娠(にんしん)や健康に害があるわ。88年のソウル五輪の陸上男子100メートルで、ベン・ジョンソン選手(カナダ)は当時の人類最速記録で金メダルをとったの。でも競技後に筋肉増強剤が出てメダル剥奪(はくだつ)になったわ。最近は検査法の進化で増強剤以外が出てきたわね。

からすけ どんなものが出てきたの?

イチ子 血液中の赤血球を増やす物質など、体の中にあるホルモンをまねた薬物が増えたの。持久力が欲しい選手が、酸素を運ぶ赤血球を薬で増やそうというわけ。68年にドーピング検査が始まった時の禁止薬物・手法は約30種類だったのに、今は200種類を超(こ)えているのよ。

からすけ 検査技術が高まると、抜(ぬ)け道になる薬物を使おうとする。いたちごっこだね。

イチ子 99年に世界反ドーピング機関(WADA、キーワード)ができるまで、各国でドーピングの罰則(ばっそく)や処分のルールがバラバラだったの。

<キーワード>
世界反ドーピング機関(WADA) ドーピングをなくす活動を進める国際機関。禁止薬物のリストや検査方法の国際基準をつくる。
スポーツ仲裁裁判所(CAS) スポーツの争い解決を目指す国際機関。仲裁人はスポーツの知識をもつ各国の弁護士や裁判官。

ロシア、国ぐるみで関与

からすけ そうだったんだ。ロシアが国ぐるみでドーピングに関与(よ)したというニュースを見たよ。

イチ子 WADAによると、ロシアは少なくとも2011年から国家主導で、検体のすり替(か)えなどの不正を繰り返してきたそうよ。旧社会主義諸国は国の力を大きく見せるために、国際スポーツ大会でドーピングをするのが習慣になっていたという指摘もあるわ。

からすけ ロシアは夏も冬も五輪のいろんな種目でメダルをとっているね。でもドーピングをしていない選手がいるかもしれないのに、全員が出場禁止になるかもってびっくりした。

イチ子 国際陸連は6月にロシアの陸上競技の選手全員のリオ五輪参加を認めないと決めたわ。ロシアは不当だとしてスポーツ仲裁裁判所(CAS、キーワード)に訴(うった)えたけれど、却(きゃっ)下されたの。ドーピング根絶に断固とした姿勢をとるWADAは連帯責任でロシア選手を締(し)め出そうと、国際オリンピック委員会(IOC)に勧(かん)告したの。

からすけ ロシアってすごい人数の選手がいるじゃない。大ごとだね。

イチ子 悩(なや)んだIOCは結局、各競技の国際連盟がロシア選手の参加の扱いを決めることとしたの。無実の選手が連帯責任で出られないというのは回避(ひ)できたけど、ドーピングをなくすためにきっちり責任をとってほしいわね。4年後の東京五輪では、検査の徹底(てってい)などの対策をしっかり打ち出すことになりそうよ。

■競争は目的でなく手段

灘中学校・高等学校の藪本勝治先生の話 数値を改ざんして利益を上げた企業が問題化するように、競争の世界ではルールを破ってでも勝とうとする人が現れるものです。五輪は選手にとって、名を上げられるかどうかがかかる大勝負。勝つことが最重要という発想になれば、不正薬物に手を染めるのにさほどの飛躍(やく)はいりません。ドーピングは常識から外れた愚(おろ)か者のやることだと決めつけてしまいがちですが、目的と手段をはき違(ちが)えたとき、人はたやすくこうした心理に陥(おちい)ります。
企業が社会貢献(こうけん)を旨(むね)とするように、スポーツの目的は良き心身を育むこと、競技を楽しむことにあるはずです。勝利を目指し競争するのは手段にすぎません。ドーピングがもし見つからなかったとしても、心身にひずみを抱(かか)えますし、何より本当に競技を楽しめたでしょうか。目的と手段の確認、他山の石とすべきでしょう。
今週のニュースなテストの答え 問1=14、問2=小池百合子

[日経プラスワン2016年8月6日付]

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