鏡のなかのボードレール くぼたのぞみ著著名翻訳家の思考の足跡

2016/8/6

ブック、おススメの1冊

(共和国・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

翻訳家として名高い著者によるエッセイ集。こう書くと、仕事上のあれこれを書いているように思われるかもしれないが、まったくそうではない。自由で、該博な知識に裏打ちされた思考の足跡が描き出されている。

きっかけは、ケープタウン。著者が訳したJ・M・クッツェーが暮らした南アフリカの都市。そこで、あるワイナリーに立ち寄る。「ワイン」と「コンスタンシア」という2つの語に導かれるように、フランスの19世紀の大詩人ボードレールの詩句が脳裡(のうり)によみがえる。

ボードレールが生涯愛した褐色の恋人ジャンヌ・デュヴァル。彼女のルーツを経めぐる思考の旅は、カリブ海へと及ぶ。「黒い女たちの影」を追い求める、達意の文章。

★★★★★

(批評家 陣野俊史)

[日本経済新聞夕刊2016年8月4日付]

★★★★★ 傑作
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…

鏡のなかのボードレール (境界の文学)

著者 : くぼた のぞみ
出版 : 共和国
価格 : 2,160円 (税込み)