しょうゆホルメン 旭川の新コラボ
ぷり熱ッ 意外とあっさり
北海道中央部の旭川市に風変わりなご当地グルメがある。その名は「旭川しょうゆホルメン」。しょうゆラーメンなのにチャーシューの代わりに豚の直腸が盛ってある。同市の2大ご当地グルメ、ラーメンとホルモン焼きがコラボした新感覚のメニューだ。においが鼻につきそうな先入観とは裏腹に、意外な風味で勢力を広げつつある。
「地元にはホルモンを食べる文化が根付いている」。北海道教育大学旭川校の正門近くにあるラーメン店「加藤屋」の北門本店。仕掛け人の店主、萩中憲治さん(46)は手応えを語る。ホルモン入りラーメンを出して新風を巻き起こそうと市内の店主らに呼びかけ、2012年に立ち上げた「旭川しょうゆホルメン倶楽部」の部長を務める。
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養豚場のある旭川ではラーメンもホルモン焼きも豚を使う。「旭川ラーメン」は豚骨をベースに魚介類を加えたスープが主流。酒やしょうゆの醸造業が盛んなことから、しょうゆ味が基本だ。一方、ホルモン焼きでは豚の内臓肉を塩で味付けして焼く「塩ホルモン」が定番になっている。
それぞれの道を歩んできた庶民の味を掛け合わせたホルメンは現在、市内のラーメン店7店が加盟し、支店を含めて10店舗で食べられる。各店で共通するのは豚の直腸や旭川産のしょうゆを使用すること。各店でスープの味が違うように、ホルモンの味付けも各店が独自に腕を振るう。
加藤屋ではホルモンを塩、しょうゆ、トウバンジャンなどで味付けする。「好き嫌いが少ないよう際立った特徴付けをしない」(萩中さん)。ラーメンも豚骨・鶏ガラとアジ・カツオなどの魚介で透明なスープに仕立ててあり、オーソドックスだ。麺は旭川ラーメンに多い縮れ麺ではなくストレート麺にしている。
食べるとホルモンはプリプリしていて、かむと歯応えが残る程度に軟らかく、ほんのりとした独特の味が染み出す。ホルモンの好きな人にはたまらないかもしれない。苦手な人でもにおいがほとんど気にならず、試してみてはどうだろう。ホルモン、ラーメンともあっさりめで、それぞれの微妙な持ち味を楽しめる。
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加盟店は市内に点在し、クルマでの移動が必要になる。市中心部にあって旭川駅から歩いて行けるのは加藤屋の4条店。土地勘がない観光客でも分かりやすいのは、8軒のラーメン店が集まった「あさひかわラーメン村」だろう。入居する「いってつ庵」と「さいじょう ラーメン村店」の2店舗で食べられる。
いってつ庵は加盟店の中でホルモンの味付けが最も濃い。甘塩っぱく、こってり味を好む人向きだ。ラーメン村は外国人観光客も多く訪れるため、バスが乗り付ける時間帯は激しく混む。「月に通常は300食出るが、昨年の夏は月最大600食出た。知名度が上がれば月1000食はいけそう」。店主の山中宣直さん(32)は意気込む。
ホルモン入りラーメンは札幌の味噌味では合ったが、旭川のしょうゆ味には合わなかった。焼き肉は焼く際に脂が落ちるが、煮ると臭みが出やすく、味噌や調味料で臭みを抑え込む必要があったためだ。
食肉加工の米谷産業(旭川市)は焼肉店に各種のホルモンを卸してきた蓄積を生かし、しょうゆラーメン向けに直腸を選定。大量の水道水で丁寧に洗浄し、ボイルしてアクを取り除く。しょうゆの風味を保てるホルモンが出来上がったことが決め手となった。
豚の直腸は1頭から200グラムほどしか取れない。同社は1食のホルモン使用量を80グラムと定めて各店に供給する。「満足感が得られる最低のライン」。米谷慈洋社長がボリューム感と原価計算に基づいて決めた。旭川では足りず、鹿児島県など道外からも仕入れる。
加盟店は毎月、店で勉強会を開き、その店のホルメンを店主らが食べて審査する。ホルメンのブランドにばらつきが出るのを防ぐ狙い。誕生から今年5月までの約3年半で累計は約6万食に達した。酒のさかなとしてホルモンをつまみながら、締めのラーメンを一緒に味わう。そんな食べ方が定着するのもそう遠くないかもしれない。
旭川市は水に恵まれる。市内には北海道の屋根、大雪山系を水源とする石狩川が流れるほか、大小100を超える河川が合流し、伏流水も湧出する。農業は最高の食味と評価が高い「ななつぼし」などのコメづくりが盛ん。日本酒メーカーは男山や高砂酒造などが酒蔵を構える。おいしい水が豊富にある証左だ。
旭川しょうゆホルメンでも、その水がホルモンの臭みを取り除き、素材本来の風味を引き出すのにつながる。ラーメンのスープを引き立てる隠れた存在でもある。
(旭川支局長 稲田成行)
[日本経済新聞夕刊2016年8月2日付]
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