大塚家具・島忠… 春日部、なぜ家具の街？

埼玉県春日部市は家具の歴史を持つ街だ。大塚家具や島忠など大手専門店の発祥の地で、6月末には大塚家具創業者が立ち上げた「匠大塚」本店も開業した。今も桐（きり）だんすを特産品とするなど、春日部と家具との関わりは意外に深い。

春日部で生まれた家具専門店には共通点がある。桐だんす職人を創業のルーツとしていることだ。大塚家具は1928年に、桐だんす職人だった故大塚千代三氏が開業した工房が前身。島忠は1893年に島村忠太郎氏が「島村箪笥製造所」を立ち上げたのが創業の経緯だ。両社とも桐だんすの製造から家具の小売りなどに事業を切り替えたが、現在も春日部の地に大型店を構える。

なぜ春日部で桐だんす職人なのか。時代は江戸初期までさかのぼる。17世紀前半に日光東照宮の造営にかかわった腕の良い宮大工が当時の地名「粕壁（かすかべ）」に住み着いたのが始まりとされる。詳細を記す史料は残されていないが、当時周辺では桐が自生し、モノをつくる材料が豊富だったことが決め手になったようだ。さいたま市岩槻区には裏に「明和九年（1772年）」と記された桐だんすが現存しており、確認できる限りでは最も古いものという。

春日部市郷土資料館の実松幸男館長は「遅くとも江戸後期には産地になっていた」と話す。現在の大落古利根（おおおとしふるとね）川を使い、舟で衣料品を多く持つ江戸の富裕層に向けて供給。時代が下るごとに家の持ち物が増え、たんすのニーズが増加すると、昭和初期には春日部一帯は数百軒の職人が集まる一大生産地となった。

ただ、現在は10軒を少し超える程度に減少した。春日部には「箪笥店」と書かれたビルで飲食店を営業する光景も目にする。春日部桐たんす組合会長の金子篤さんは「桐だんすは除湿や温度を保つ効果があり、大事な着物の保存に適していた。いまは安い服を着てすぐに買い替え、服を大事に所有する習慣が薄れている」と話す。時代の移り変わりとともに、衣類の収納に求める機能も多様化したのだろうか。

大塚家具はいまも全国の大型店で桐だんすを扱い、匠大塚本店もさまざまな桐だんすを用意する。職人は減っているものの、春日部一帯で培われた桐だんすの文化は脈々と受け継がれている。