渇水を乗り切る節水術は?
洗濯すすぎ1回なら60リットル
家庭では1日に1人当たり約220リットルもの水を使っている(東京都の調査)。こまめに蛇口を閉め、水の再利用を心がけるのが王道だが、ちょっとした工夫や、常識を疑うだけでも節水は可能だ。
家庭の水利用の約4割を占めるのが風呂。シャワーと浴槽ではどちらが節水になるのか。東京都によるとシャワーを1分流すと約12リットルになる。200リットルの浴槽だとシャワー16分でほぼ同じ量だ。浴槽の方が水を多く使う印象があるが、家事アドバイザーの矢野きくのさんは「3人で1人5分間シャワーを使うと浴槽がいっぱいになる。これを目安に判断して」と指摘する。
シャワーの湯も工夫次第で減らせる。例えばシャンプーした後の髪のすすぎ方。花王・生活者研究センターの福地奈津子さんによると「事前に髪を絞るように泡を落としておくと、時短と節水につながる」。同社の試算では、すすぎに使う水の量は0.5リットルから8リットル節水できるという。
まとまった量を使う洗濯も節約の余地が大きい。洗濯機は機種によっては洗い1回、すすぎ2回で約180リットルも使う。矢野さんは「習慣ですすぎは2回と信じ込んでいないだろうか」と注意を促す。
最近はすすぎ1回で済む洗剤が販売されている。これなら最大約60リットルの節水になる。普段使っている洗剤でも、肌や生地への影響をあまり気にする必要のないマットなどは、すすぎを1回に設定する方法もありそうだ。
風呂水の再利用も効果が大きい。花王によると、全自動縦型洗濯機の場合で32~55リットル、ドラム式で19~29リットルの節水効果があるという。ただし再利用は洗いだけ。すすぎには使わないようにしよう。
食器汚れ 事前に紙でふく
節水の常識の中には、やり方次第で結果が違ってくるものがある。例えば食器洗い。手洗いより食洗機の方が節水できると考えがちだが、必ずしもそうとはいえない。
食器に残ったソースなどは事前にゴムべらで落とし、キッチンペーパーでふき取る。こうした一手間をかければ、洗剤の量も洗い流す水の量も減らせるという。
トイレではタンクにペットボトルを入れて洗浄水を減らす方法が知られているが、これも古い常識。1990年代までのトイレは10リットルを超える水を流していたが、便器の構造見直しなどで最新機種では4リットルを切るまでに。「これ以上減らすと排せつ物がうまく流れなかったり、紙詰まりの原因になったりする」(TOTO)。タンクに入れたペットボトルが弁などに引っかかり排水が止まらなくなれば、逆効果。「漬物石を入れるのも避けて」(同)という。
首都圏の渇水でにわかに注目が集まる節水。実はここ数年、意識が緩みつつある。
東日本大震災が発生した2011年、節電に加え節水の意識も高まった。花王が首都圏の既婚女性を対象に行った調査では、震災直後の11年は「節水」より「快適性」を優先する人が半数程度(52%)にとどまった。しかし15年になると7割近く(68%)まで上昇。「入浴時のシャワーはこまめに止める」「洗濯はなるべく回数を減らす」「洗顔・歯磨きの際に水を出しっ放しにしない」と答えた人の割合も11年より減少傾向にある。
特に風呂は「他人の目がないだけに、節水がおろそかになりがち」(花王)。季節や場所を問わず、節水を忘れないようにしたい。
自然環境への配慮も忘れないように。東京都によると、コップ一杯の牛乳を下水に流した場合、魚がすめる水質に戻すのに4000リットル近い水で薄めなければならない。大さじ一杯のしょうゆも約500リットルと大量の水が必要になる。
下水道が整備されていれば浄水場で処理されるため、大量の水は必要ないが、河川や海などにそのまま流れ込めば、環境に負荷をかけることになる。それを浄化するには新たなエネルギーや水資源が必要になることも念頭に置いておこう。
(田辺省二)
[日経プラスワン2016年7月30日付]
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