失われた過去と未来の犯罪 小林泰三著
記憶が続かない人類の危機
人類全体に、記憶が十分くらいしかもたない、いわゆる長期記憶障害が起きてしまったら? 本書は、この危機的状況を淡々と論理的に詰めていく。
まずいかにこの状態に気付いたかという発覚の真相と、解決策の探求がこれでもかというほどの発想で展開する。いかにもありそうなリアリティから漏れ出す、黒い笑いの怖いこと。
一番気になるのは、やはり原発施設。手作りの発想でその場を乗り切ろうとする人類は、長期記憶を外部装置に頼って生きのびることに成功する。だが今度は装置の取り違え事件が続き、人格崩壊の珍騒動が……。七転び八起きの人類もしたたかだが、期待通りの奇妙奇天烈な展開に驀進(ばくしん)する、作者の想像力も相当強靭(きょうじん)だ。
★★★★★
(ファンタジー評論家 小谷真理)
[日本経済新聞夕刊2016年7月28日付]
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…
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