新世代ロックユニット・GLIM SPANKY 世界に響け
英米バンド仕込み、曲調の多様さ魅力
切ないハスキーボイスで歌う松尾レミ、ハードなギターサウンドを聴かせる亀本寛貴。1960~70年代の英米ロックで育った中年世代にもファンの多い新世代のロックユニットだ。
20日に発表した2枚目のアルバム「Next One」は映画の主題歌など話題作が満載で、本格的なブレイクも間近とみられている。最大の特徴は作詞、作曲を手がける松尾のアーティストとしての深みと幅の広さだ。50代後半の父親の影響が大きいという。
「家では物心つく前からロックのレコードが回っていました。中学2年のころ日本のバンドを好きになり、彼らのルーツを調べたらビートルズやストーンズ、ザ・フーなどにたどり着いた。全部うちにあるじゃんと思って、改めてレコードを聴き直し、自分でバンドを始めたのです」
「バンドをやるなら見ておけと父から渡されたのが69年の伝説的なロックフェスティバル『ウッドストック』のDVD。以後も、これを聴け、あれを読めと刺激を与えてくれました」
松尾は高校に入るとすぐにGLIM SPANKYを結成。少し遅れて1年先輩の亀本が加わる。松尾は高校1年の11月からオリジナル曲を作り始めた。
「祖父が日本画、母はイラストと、親戚も含めて美術一家で、私も保育園に入る前から日本画の絵の具でお絵かきをしていました。その延長で、何か物を創り出すのが好きになった。曲を作るのは、絵筆がギターに置き換わっただけです」
松尾は日本大学芸術学部でデザインを学んだ。
「GLIMのオリジナルグッズやインディーズ時代のCDジャケットのデザインは私が手がけました。音楽は音だけではないと思っています。ファッションや文学、アート、映画など、すべて含めて私の思い描くロックになるのです」
松尾の曲には2つのタイプがある。公開中の映画「ワンピース フィルム ゴールド」の主題歌「怒りをくれよ」のような攻撃的なロックと、10月公開の映画「少女」の主題歌「闇に目を凝らせば」のような幻想的なフォーク調の歌だ。
「攻撃的な曲は自分のタンクからあふれてくる感情をそのまま書いています。幻想的な曲は昔から大好きでした。幻想文学やシュールレアリスムの絵画から想像を膨らませ、その世界に入り込んで書くのです」
好きな作家や画家を尋ねると、次から次へと固有名詞が挙がる。稲垣足穂、渋沢龍彦、寺山修司、アレン・ギンズバーグ、ポール・デルボー、マックス・エルンスト……。作曲面でも60年代の英国のトラッドフォークやサイケデリックポップの影響を受けている。
編曲の主役は亀本だ。松尾の詞と曲にロックサウンドを乗せていく。
「僕が先に音のアイデアを出し、詞やメロディーをつけてもらう曲もあります。日本語を乗せるのは難しいだろうなと思いながらハードな曲を投げかけても、彼女はその壁を突破してくれる」と亀本が語る。
目標は「日本語で世界に通じるロック」と口をそろえる。「言葉が分からなくても、人を感動させられる何かが絶対にあると思う」
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曲調の多様さが魅力
GLIM SPANKYといえば、昨年の「褒めろよ」や新曲「怒りをくれよ」のように、松尾レミがジャニス・ジョプリンばりの強烈なハスキーボイスで歌うハードな曲の印象が先行している。それも魅力的なのだが、彼らの本領は幻想的でサイケデリックなフォークにあるように思う。
東京・鶯谷にある元はグランドキャバレーだったというホール、東京キネマ倶楽部で開いた7月9日のライブは会場のレトロな雰囲気に合わせ、幻想的な曲ばかり演奏するという粋な趣向だった。
「真っ暗な部屋に寺山修司の天井桟敷のポスターが張ってあるような家で育ちました。小さいころは怖くて仕方なかったけれど、私もそんな世界が作れたらいいなと思うようになったのです」と松尾は観客に語りかけた。稲垣足穂の「一千一秒物語」から抜け出したような不可思議な歌を彼女は歌い、その詩句の一つ一つが、亀本のギターに彩られながら万華鏡のようにイメージを広げていった。
(編集委員 吉田俊宏)
[日本経済新聞夕刊2016年7月27日付]
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