「ポーの一族」「ベルばら」 復活漫画、母娘で楽しむ
少女漫画の往年の人気作が相次ぎ復活している。連載終了から時を経て、新作や続編が登場。旧作が手に入りやすくなり、世代を超えて、当時を知る母とその娘の両世代に読まれている。
6月上旬、都内の書店から袋を大事そうに抱えた40歳代の女性が出てきた。中身は「月刊フラワーズ」7月号。1972~76年に連載された萩尾望都の「ポーの一族」の40年ぶりの新作が載った漫画誌だ。
「新作が出ると聞いたときは手が震えた」。5月下旬の発売を心待ちにしたが、発売当日、書店に行くと完売。途方に暮れていたところ、版元の小学館が重版を決め、慌てて予約したという。
7月号は通常の2倍の売れ行き。6月9日に急きょ配信を始めたデジタル版も約1万部が売れた。読者からは「生きていて良かった」といった感想が寄せられている。
「ポーの一族」は少年のまま永遠の時を生きる運命を背負った吸血鬼エドガーの物語。関連書籍の累計販売部数は約350万部で熱狂的なファンも多い。
今年、創刊15周年を迎える月刊フラワーズの編集部が昨年末、萩尾に記念企画を打診すると新作の掲載を持ちかけられたという。「先生が『いつか続編を』と考えていらっしゃるのは知っていたが、本当に描いていただけるとは」。担当の古川麻子副編集長は喜ぶ。
40年ぶりということもあり、登場人物の顔や体を以前と同じように描くのは大変だったようだ。ただ、「現在の問題意識を反映しながら、楽しんで描いてくださった」と古川副編集長は感じた。今冬にも、続きを掲載予定だ。
「ベルサイユのばら」(連載は1972~73年)も長い時を経て「復活」した名作の1つだ。2013年、池田理代子は40年ぶりの新エピソードの連載を始めた。きっかけは、集英社の雑誌「マーガレット」の創刊50周年だった。記念のコメントを依頼したところ、池田はもっと描きたい話があったと明かし、「『せっかくなら漫画を描きたい』と提案いただいた」(編集担当の鈴木秀幸氏)という。
また、同社の月刊漫画誌「りぼん」では、2013年と15年に池野恋が「ときめきトゥナイト」(同1982~94年)、水沢めぐみが今年「姫ちゃんのリボン」(同90~93年)の番外編をそれぞれ執筆した。
いずれも自身の代表作で強い思い入れを持つ読者は多い。それだけに、連載時のイメージを壊すわけにはいかず、水沢は「自分で描いていたはずなのに、当時の絵に似てくれない」ことに苦労。当時の雰囲気を出そうと単行本を横に置き見比べながら描いたという。
過去の作品は完結したまま、そっとしておいてほしかったという読者もいたが、大半のファンが「復活」を好意的に受け入れた。池野は「時を経ても喜んでくれる人がいることに感激した」と話す。
旧作の新編や続編が相次いでいる背景について、京都精華大学マンガ学部の吉村和真教授は「かつて少女漫画誌に夢中だった女性が母親になり、自分が読んできた作品を娘と一緒に楽しむことが増えている」と指摘する。旧作も、電子書籍などで手軽に読むことができる。母娘の世代で共通の人気作になることもあり、「新作が出たときには幅広い読者層を見込める」(吉村教授)という。
「ベルばら」の新エピソードを収録した単行本は14年の刊行時、売り切れ店が続出し、発売当日に5万部の増刷が決まった。「母親や祖母と一緒に読むという若い読者もいる」と編集担当の鈴木氏。名作漫画は世代を超えて受け継がれている。
(文化部 岩本文枝)
[日本経済新聞夕刊2016年7月26日付]
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