軽量義足スパイクや高性能車いすでパラ競技支援

今仙技術研究所の後藤氏(右)とミズノの宮田美文氏(左)が開発した義足用スパイクは、足部分に装着して使用する
今仙技術研究所の後藤氏(右)とミズノの宮田美文氏(左)が開発した義足用スパイクは、足部分に装着して使用する

7日開幕のリオデジャネイロ・パラリンピック。世界最高の舞台で戦う日本人アスリートを用具の面で支えるのが高い技術力を誇る国内の中小メーカーだ。国産初の義足用スパイクや様々な要求を聞き入れた車いすが選手の金メダル獲得を後押しする。開発した企業はここを通じて培った技術力を高齢者や身障者の福祉用具の開発にも役立たせる考えだ。

義足で思い切りプレートを踏み切り、168センチの小柄な体が宙を舞った。「6メートル56センチ」。記録が呼ばれると笑顔で両手を空に突き上げた。今年5月、日本選手権で男子走り幅跳び(下肢障害)で世界記録(当時)を更新した山本篤選手だ。

2007年ごろから山本選手に義足を提供するのが福祉機器を製造・販売する今仙技術研究所(岐阜県各務原市、山田博社長)だ。リオ行きの切符を手にした山本選手は今仙が国内で初めて開発した義足用スパイクを使用する予定だ。

多くの選手は従来は市販のスパイクの靴底を切り取り、義足の足の裏部分に接着するのが一般的だった。「すぐにはがれるという問題点と性能面で不安があった」と技術2課の後藤学氏は言う。山本選手らから要望を聞き、スポーツ用品メーカーのミズノと開発に取り組んだ。

スタートが切りやすいように義足専用に設計した11個のピンを配置したスパイクを製作した。義足の足部分に接着して使用する。海外製の最大3分の1の56グラムと軽量化を追求した。ダイヤルを回すと義足に確実に固定できる機能を考案した。

08年北京と12年ロンドンで金メダルを獲得し、リオでは3連覇がかかる車いすテニスの国枝慎吾選手。オーエックスエンジニアリング(千葉市、石井勝之社長)は国枝選手の車いすを作る。

国枝選手が使用しているのがオーエックスの競技用車いす「TRZ(税別24万1500円から)」。同選手と10年来の付き合いという同社のテニス担当、安大輔氏が綿密な打ち合わせを重ねて開発した。

車輪の素材などを見直し、前作よりも700グラムの軽量化に成功。座面を5ミリ高くし、ハンドリングの直径を太くして操作性を向上させた。

安氏は「勝ちたいという国枝選手の思いに引っ張られて最高の車いすが完成した」と喜ぶ。

義肢装具製作のアイムス(水戸市、青木英城社長)は社員約5人の小企業。義肢装具士の斎藤拓氏と筒井仁哉氏を慕って多くのアスリートが訪れる。ロンドン大会で銅メダルを獲得したロードタイムトライアル(自転車競技の一種)の藤田征樹選手もその一人だ。

足の切断面の石こうモデルを作製し、骨がわずかに出ている箇所にふくらみを持たせ、体重を支える場所を作るために削る。足を収める「ソケット」という重要な部分を作る。

「義足で歩くのは健常者が竹馬に乗っているようなもの。疲れて当然」と筒井氏は語る。数ミリ単位で微調整を繰り返して最適なポジションを探り当てる。

高い技術力と繊細な心遣いが多くのアスリートを引き付ける。

日本福祉用具・生活支援用具協会によると2013年度の義肢・装具市場は2106億円で直近5年間は1700億~2000億円で推移している。ただ、市場のほとんどは一般用義足で、スポーツ用義足の売上高は小さいとみられる。

アイムスの斎藤拓氏は「義足でパラリンピックに出るのは10人いるかいないか」と話す。義足の値段は障害の度合いによって変わるが、指用から大腿部用まで数十万円から300万円ほどと幅がある。特にカーボンなどの軽量素材を使用しているスポーツ用義足や車いすは通常製品よりも高価だ。市場は海外メーカーが9割を占めるという。

変化の兆しはある。今仙技術研究所と事業提携したミズノはスポーツ用義足事業に参入すると発表した。10月をめどに一般からの注文も受け付ける。得意とするのはカーボン加工の技術だ。

ミズノの14年度のカーボン素材の売上高は約8億円。トヨタ自動車にカーボン部品を提供するなどして事業を拡大し、30億円を目指している。

障害者スポーツ用義足への参入でカーボン事業を多角化する。共同開発で蓄積したノウハウを高齢者向け用具の開発にも生かす。今仙技術研究所も「スニーカー分野でのミズノの優れたノウハウを活用したい」と事業提携に期待する。

大手とニッチな分野で存在感を示す中小が得意技術を持ち寄って魅力的な新製品を開発し、市場を活性化すれば、用具市場の拡大や価格低下も期待できる。