青い海、温暖な気候、独特な文化が魅力の沖縄。あこがれて移住を考える人がまず検討すべきは住む場所だ。賃貸を選択する人が多数派だろうが、戸建てやマンションを購入する例も少なくない。どの地域で、どんな住居が買えるのか。移住者の住まいの選択肢を調べてみた。
「夏になって暑さは厳しいけれど、周りの緑が気持ちいい」。昨年10月に東京から沖縄へ移住した多田裕さん(77)の家は本島北部の本部町、美ら海水族館のすぐ近く。昔ながらの集落の風情が色濃く残り、観光スポットにもなっている備瀬のフクギ並木の一角にある。道の両側や各敷地を囲んでフクギが青々と茂る。海までは50メートルほどだ。
ファッション業界でかつてデザイナーズブランドの会社を経営していた多田さん。この地で4年前に100坪の土地を手に入れた。延べ床面積約83平方メートルの平屋建ては古民家風の造り。別荘にしていたが、仕事をリタイアしてから移り住んだ。多田さんの家を建てたIMIコーポレーション(那覇市)が、移住希望者から戸建ての施工を請け負うのは年1、2軒という。
マンション購入では移住者数は一気に増える。海邦総研(那覇市)が沖縄本島の分譲マンション居住者を対象に行ったアンケート(2016年3月)では、13.0%が「移住」を購入理由に挙げた。50代では23.7%に上る。
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移住者が住みたい地域は2つに大別できる。1つは海を見ながらゆったり暮らせる場所。もう1つは車がなくても生活できる利便性の高いところで、海が見えればさらによいとの条件が付く。主に前者はリゾート地として人気の高い本島北・中部西海岸の恩納村、読谷村で、後者は那覇市やその近郊となる。
しかし、東急リゾート沖縄営業所の山戸一矢所長はリゾート地の現状についてこう指摘する。「海沿いに分譲地はまずないし、マンションもない。オーシャンフロント、オーシャンビューの戸建ての売り物を探すのが一番難しい」。希望に沿う戸建てがあっても、5000万~6000万円の予算が必要になる。
それでも「あくまでリゾート地、手ごろな値段で」というのなら、海は近いが見えない、狭い、古いなど、条件面で妥協するしかない。または、那覇に出るのに車で2時間前後かかるが、本部町や今帰仁村あたりまで北上するなど、範囲を広げて探す必要がある。
山戸所長が薦めるのは那覇から車で40分前後の南城市。本島南部の東海岸にある市で、きれいなビーチが点在する。近年、高台から海を見下ろせる宅地や戸建てが人気を集めている。「ここなら、じっくり探せば希望にかなう物件がまだ出てくる」
一方、那覇市内の戸建ては価格がさらに高くなる。「土地の値段を聞いて皆さん、びっくりする」とIMIの大城直志代表取締役最高経営責任者(CEO)。鉄筋コンクリート造りが主流なので施工費も割高だ。マンションは「東日本大震災後に本土の人が買い始めて値上がりした。中古も物によっては値段が上がっている」(沖縄県不動産鑑定士協会の松永力也会長)。
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戸建て購入希望者に松永会長が提案するのは、那覇近郊の市町で区画整理の途中か終えたばかりの分譲地。豊見城市の宜保、浦添市の経塚、南風原町の津嘉山、八重瀬町の伊覇は「土地付きの戸建てが3000万円台に収まる」という。マンションなら山戸所長がいうように、国際通りなど市街地に多くある古い物件を買い、リノベーションして住むのも一手だろう。
賃貸にはなるが、離島や過疎地域の暮らしをいとわないのなら、県内自治体が移住者向けに新しく整備する「定住促進住宅」なども一考の余地がある。東村、渡名喜村、伊是名村が戸建てや集合住宅を賃貸している。
本島の北方に位置する離島の伊是名村は古民家の修復や復元を進め、3戸で子育て家族を募集した。うち1軒は敷地面積347平方メートル、延べ床面積93.5平方メートルで家賃は月3万円(敷金なし)。現在、希望者3組に絞って選定中だ。残り2戸は入居済みだが、同村では来年度も新たな物件の修復・復元を予定している。
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沖縄への移住者が増えているといわれるが、その実態は定かでない。せっかく移住しても数年で引き返してしまう例も少なくない。移住者向けの取り組みを本格的に始めた沖縄県は、まずは2週間ほどの「現地お試し生活」を勧めている。
(那覇支局長 唐沢清)
[日本経済新聞夕刊2016年7月13日付]