ラスト・タンゴ
激情のダンス、重なる人生
マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コぺス。アルゼンチンが生んだタンゴの名カップル。50年を超える時の流れの中で、彼らはパリ、ブロードウェイ、と世界をタンゴで征服したが「タンゴ・アルヘンティーノ」の日本公演後の1997年にコンビを解消した。
そんな二人の伝説的タンゴ人生を『不在の心象』(98年)が山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞受賞のアルゼンチン人ヘルマン・クラルが監督して映画化。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99年)の監督ヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を執った。
名曲「バンドネオンの嘆き」「私はタンゴ」などに乗せて、老ダンサー本人が過去を回想するドキュメンタリーだが、若い日の二人を青春時代、壮年期に分け、それぞれを当代きってのタンゴダンサーが演じて踊るダンス・ドラマでもある。
ここには、ヨーロッパからアルゼンチンへ流れ込んだ移民たちの貧困や孤独の日々を癒し、生きるための力になったタンゴが息づき、そこにマリアとフアンのたどった人生が重なる。
マリア14歳、フアン17歳。タンゴ全盛期の40年代に出会った若い二人は恋に落ちた。愛に身を焦がし、嫉妬にかられて憎しみを叫ぶタンゴの歌詞がそのままの激情の人生を歩みながら、史上最高のダンス・カップルへとのしあがっていく。
50~60年代の半ばに結婚・離婚、この間にタンゴのブームは来ては去った。映画は描かないが日本でも50年代にブームが来て、この時期に出現したタンゴ歌手・藤沢嵐子の名はアルゼンチンへも轟(とどろ)いた。フアンは70年代前半、マリアには内緒で若い女と再婚して彼女を激怒させた。最高のパートナーとわかっていても憎い女、と苦悶(くもん)の表情を浮かべるフアン。それでもマリアは素晴らしい、と映画は熱く叫んでいる。マリアはタンゴそのものだ。1時間25分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2016年7月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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