押切もえ・壇蜜らが小説… 第2の「又吉」現れるか

押切もえは著書「永遠とは違う一日」が山本周五郎賞候補に選ばれた
押切もえは著書「永遠とは違う一日」が山本周五郎賞候補に選ばれた

押切もえや壇蜜ら、人気タレントが相次いで文芸誌・小説誌に小説を発表して話題となっている。昨年、芥川賞を受賞したお笑いタレント・又吉直樹に続く才能は現れるのか。

「モデルという職業は前向きなイメージしか求められない。でも、小説なら自分の陰の部分も表現できる」。人気モデルの押切もえ(36)は小説執筆の魅力を語る。著書「永遠とは違う一日」(新潮社)が今年、優れた大衆文学に与える山本周五郎賞の候補に選ばれ、話題を呼んだ。

上京してモデルのマネジャーになった女性、若手スタイリスト、アイドルの娘を持つ画家ら、芸能界を取り巻く10~40代の女性を描いた全6編の連作短編だ。仕事や恋に悩み、挫折も経験しながら夢に向かって成長する女性の姿を、てらいのない文章でつづった。

執筆のため20人以上に会って取材した。とくに時間をかけたのが、アイドルを辞めて助産師を目指す女子高生を描いた最終話。都内の助産院に、自ら連絡を取って出向いた。実際に見聞きして「同じ女性としてわくわくした」自身の思いを主人公に投影したという。

読書家が高じて

高校時代は雑誌の読者モデルとして活躍する一方、読書好きで太宰治の作品に熱中した。2作目の小説となる今作は「小説新潮」(同)で発表した小説誌デビュー作。文芸誌・小説誌は他の寄稿者と並んで作品が掲載されるため、「小説家の仲間入り」とのイメージにもつながる。

今作が世間の注目を浴びた背景には、又吉直樹(36)の成功がある。読書家で、太宰を敬愛する又吉は、文芸誌「文学界」(文芸春秋)で発表した「火花」(同)で芥川賞を受賞。一躍、時の人となった。押切の文学賞ノミネートまでの過程が似ていたため、「第2の又吉」と騒がれた。僅差で賞は逃したが、小説家としての実力は示された。

「オール読物」で自身初の小説を発表した壇蜜

男性向け週刊誌によくあるグラビアコーナーを引き合いに出し、「『袋とじ』(に出ている自分)が、伝統ある『オール読物』ですよ」と冗談めかすのは、壇蜜(35)。妖艶な容姿と、機知に富む発言で人気のタレントだ。小説誌「オール読物」(同)6月号で、自身初の小説「光ラズノナヨ竹」を発表した。「官能小説でも書いてろって思われるかもしれないけど」と謙遜するが、これまでにエッセー集も出しており、文章力には定評がある。

小説は「竹取物語」を下敷きに、女子大生がひょんなことから「おっぱいパブ」で3カ月間だけ働くてんまつを描いた短編。キレの良い文章はユーモアにあふれ、読後感は爽やかだ。「昔話をモチーフに」という編集者のアイデアをもとにストーリーを練った。「雑誌のファンが不快にならないことを第一に」考え執筆したという。

「(掲載号の)表紙には『松本清張の魅力』より大きなフォントで名前がある。震えました」。年内にも2作目を掲載する予定で、同誌の武田昇編集長は「太宰治が昔話を題材に執筆した『お伽(とぎ)草紙』のような魅力がある。いずれ、昔話シリーズで単行本にまとめたい」と話す。

人生経験に期待

他にも「文学界」では、タレントのマキタスポーツ(46)が上京した男性の青春を描く小説「雌伏三十年」を連載中で、又吉を起用した編集者が手がける。ジャニーズ事務所所属のアイドル、加藤シゲアキ(28)も小説誌「野性時代」(KADOKAWA)に何度か短編を発表している。

過去の芥川賞受賞者には版画家の池田満寿夫やミュージシャンの辻仁成らもいる。他分野の人材が活躍することで、文学の世界は活性化してきた面もある。

筑摩書房顧問で書評家の松田哲夫氏は「大抵の編集者は、タレントが書きさえすれば売れる、とは思わない。ただ、芸能界で名を成す人は、それだけの人生経験を積んでいて、書くものを持っているのは確かだ。簡単に二匹目のどじょうとはいかないが、『又吉効果』でこうした人材が発掘されていくといい」と話している。

(文化部 佐々木宇蘭)

[日本経済新聞夕刊2016年7月5日付]