SNS 企業人の心得、トラブル避けて活用
業務内容に触れない・処分の恐れも 勤め先の中傷を発見、反論せず報告
仕事にからむ情報をSNSに書き込み、トラブルにつながることは少なくない。近年では、兵庫県姫路市の職員が企業の固定資産税の申告書が含まれる画像をツイッターに投稿した事例や、東京都内のホテルのアルバイト従業員が利用客の有名人の情報を、ツイッターで発信して問題になった事例があり、市もホテルも謝罪した。
アルバイト従業員は匿名で投稿していたが、結局は名前を特定され、アルバイトの個人情報や写真がネット上に流出するという後味の良くない出来事も起きた。ビジネスパーソンがこうした問題を起こせば、場合によっては懲戒処分や退職となるリスクもあるだけに、より注意が必要だ。
では、どんな点に注意したら良いのだろうか。SNSに詳しい一般社団法人ニューメディアリスク協会(東京・港)の衣川武志さんは、問題となった事例を踏まえ、まず基本的な注意点を3点挙げた。その内容は、(1)発信者自身の個人情報を特定されることがあるので、匿名でも面白半分の投稿は控える(2)写真を投稿する時は、背景に注意し、場所の特定につながらないようにする(3)消せなくなることがあるので、投稿は一生残ると考えた方が良い――である。
この一般的な留意点に加え、企業人には職務上の機密への配慮がさらに重く加わる。「業務については具体的な内容に触れない方がいい」と、ウェブコンテンツ制作を手掛ける日本ワイドコミュニケーションズ(東京・中央)社長の松井保さんは話す。社内で日常的に話している新製品やキャンペーンの内容が機密情報にあたる場合もあるが、その感覚がまひして気軽に投稿してしまう恐れもある。同社では、個人のSNS利用は推奨しながらも、業務内容については、具体的に書かないよう繰り返し注意喚起しているという。
自社や取引先について具体的に表現することは避けるのが大原則だ。どうしても仕事に関することを書きたい場合は、話題を一般化するなどの工夫が大切になる。また、勤務先企業の待遇や上司・同僚についての愚痴を書きたくなることもあるかもしれないが、誰もが見られるSNSで、社内の愚痴を発信するリスクは非常に大きく、そもそもそんな企業人は信頼されない。
多くの企業がSNSの持つ力と危険性に気付き、社員向けの規定やガイドラインを設けるようになっている。これらを確認し、あれば従うことが大前提だ。
勤務先にない場合は、日本コカ・コーラ(東京・港)の行動指針や復興庁の規定など、インターネット上でオープンになっている指針やガイドラインが参考になる。
日本コカ・コーラの行動指針では、(1)就業規則や個人情報保護などの法令に従う(2)ブランド価値を守る番人としての役割を意識する(3)会社についての中傷的な投稿には自分の判断で反論せず担当者に報告する(4)仕事に関する記載は、業務とプライベートの境界があいまいになりやすいので特に気をつける――という4点があげられている。
復興庁の規定では、勤務中の公務外の発信が許されないことが明記されている。これは公務員だけではなく、企業人一般に当てはまる。会社の批判や常識を逸脱したような内容でなくても、就業時間中の私的な発信は、職務専念義務に違反する可能性があるからだ。会社から貸与されている携帯電話やパソコンで私的な投稿をしたり、会社内で写真を無断で撮影して投稿したりすることも避けるべきだ。
昨年ガイドラインを定めたシステム開発のガリレオスコープ(東京・港)では「よく考えてから投稿する」「間違いを正し、明記する」「他者に敬意を払う」などわかりやすい表現でまとめた。マネージャーの小崎英治さんは「基本的には常識的な行動をしてください、ということに尽きる」と解説する。
面と向かって言えないことや現実の社会でしてはいけないことは、ソーシャルメディアでもしてはいけない。常にこれを忘れてはならないだろう。
(ライター 田中 輝美)
[日本経済新聞夕刊2016年7月4日付]
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