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「サザエさん」じゃんけんコーナー、データ分析し予想 会社員、高木啓之

2016/7/4付 日本経済新聞 朝刊

♪お魚くわえたドラ猫~、追っかけて~。

日曜の午後6時半、おなじみの音楽が流れてくる。フジテレビの人気アニメ「サザエさん」のオープニングテーマだ。これを合図に、少し緊張しながら「ツイッター」(短文投稿サイト)でつぶやく。「今回、私が出す手はグーです」

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■昨年の勝率は78%

番組最後にサザエさんとじゃんけんするコーナーがある。そこで勝つ手を予想し、冒頭で発表する。もちろん当てずっぽうではなく、過去のデータを分析して割り出したものだ。「サザエさんじゃんけん研究所」を立ち上げ、こうした活動をするようになって25年。昨年の勝率は78%だった。

ウェブサイトで分析結果を公開している

「サザエさん」の放映が始まる2年前の1967年、千葉県で生まれた。日曜は家族と「サザエさん」を見て育った。その後も「宇宙戦艦ヤマト」などに夢中になるが、アニメ好きの原点はここにあると思う。

大学では情報工学を学び、卒業後はシステムエンジニアに。アニメへの興味は失わず、社会人になってからもインターネットの掲示板で、仲間と情報を交換して楽しんでいた。

「『サザエさん』のラストが変わった!」「一体、何が」。91年の秋、掲示板に衝撃が走った。それまで番組の最後は、放り投げたお菓子のようなものを口でキャッチし、のどに詰まらせたサザエさんが「んがぐぐ」と声を出す映像だった。なんともコミカルでお茶の間を和ませていた。

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■新クール初回はチョキ

それが突然、じゃんけんに変わったのだ。かけ声とともに、グー、チョキ、パーのパネルから1枚選び出し、「うふふふふ」と笑う。画面を見ながら強く思った。サザエさんに勝ちたい――。

すぐに掲示板に星取表が作られた。10人ほどが参加して、放映前に手を発表する。競争するのが面白く、毎週の楽しみになった。

どうにか勝とうと、データを分析するうち、過去2回の手から、次の手が予測できることが分かった。例えば、3回続けて同じ手を出すことはめったにない。さらに、前々回がパー、前回がグーなら、次はグーを出す確率が高いなどのパターンがある。

番組の新しいクールが始まる1月、4月、7月、10月の初回は、ほとんどチョキを出す。気合を入れてピースをしているのか。それならと、こちらも力を込めてグーを出す。「FNS27時間テレビ」内でスペシャル版が放映される場合も、チョキだ。サザエさんの手を決めるのも人間だから、ランダムに見えて、実はクセがある。

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■3400人につぶやき

10年ほどで星取り合戦は下火になり、参加者は私1人に。かえって使命感を感じ、半ば意地になって続けた。精度はどんどん上がって、勝率は7、8割を維持していた。

ところが2003年3月、突然、勝てなくなった。法則が当てはまらないのだ。焦りを募らせながら、1年ほどかけて新たなパターンを割り出した。以後も何年かに1度、低迷期が訪れた。

この謎が解けたのは、ある情報番組で「サザエさんのじゃんけんの手は誰が決めているのか」を探る企画が流れたとき。「編集」担当者が決めていることがわかり、エンドロールのクレジットに目を凝らすようになった。「編集」が変われば、パターンが変わる。そのたび、闘志を燃やす。

研究成果をまとめ、年2回、「サザエさんじゃんけん白書」を発行し、漫画同人誌の即売会で売る。興味なさそうに立ち去る人もいれば、「こういうの探してました」と熱心に話しかけてくれる人もいる。ウェブサイトでも過去のデータを公開している。番組終了後すぐに更新するから、カツオ君の失敗や、タラちゃんの笑顔を眺めつつ、その準備にいそしむ。

5年ほど前からツイッターも始めた。3400人のフォロワーに向けて予測結果をつぶやくわけで、毎週のことながら緊張する。研究所所長を名乗っておきながら、負けたら面目が立たない。

高木啓之さん

じつは今、かつてない危機に陥っている。というのも、「編集」は変わらないのに、今年1月以降、急に勝率が落ちたのだ。もしや、研究所の存在が知られ、裏をかかれているのだろうか。

こんなふうに、思いもよらないことが起こるからこそ、研究を続けたくなる。新しい挑戦にわくわくする。放送が続く限り、サザエさんは永遠のライバルなのだ。

(たかぎ・ひろゆき=会社員)

[日本経済新聞朝刊2016年7月4日付]

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