健康・医療

病気・医療

髄膜炎、大人も油断禁物 風邪のつもりが意識障害も

2016/7/7 日本経済新聞 プラスワン

PIXTA
 発熱や頭痛など風邪に似た症状から始まり、重症化すると意識障害やけいれんなどが起こり、命にかかわることもある「髄膜炎」。子供の病気と思いがちだが、大人も決して油断できない。国際化とともに感染する機会も増えている。仕事や観光、留学などで海外の流行地に行くときは、ワクチンで予防することも重要だ。

 髄膜炎は、脳と脊髄を覆う髄膜に炎症が起こる病気。細菌感染による「細菌性髄膜炎」とウイルスなどによる「無菌性髄膜炎」に分けられる。重症化しやすいのは前者の細菌性で、原因となる菌は多数ある。代表的なのが肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(ヒブ)、髄膜炎菌だ。

 このうち、肺炎球菌やヒブによる髄膜炎は小児に多く、予防のためワクチンの定期接種が実施されている。国立成育医療研究センター感染症科(東京・世田谷)の宮入烈医長は「いずれもワクチンの予防効果で患者数は減っている。厚生労働省研究班の報告では、定期接種前より、肺炎球菌が原因の髄膜炎の割合は61%減、ヒブによる髄膜炎は98%減少した」と話す。

■大流行の恐れも

 一方、髄膜炎菌による感染はこれらに比べるともともと発症数が少なく、菌自体の認知度も低い。だが、国立感染症研究所感染症疫学センター(同・新宿)の砂川富正第二室長は「髄膜炎菌は感染力が強く、大規模な流行を起こすことがある。海外との交流が増すにつれ、今後は患者数が増える可能性がある」と注意を喚起する。

 髄膜炎菌はせきやくしゃみなどで、人から人へうつる。何の症状も無い健康な人の鼻やのどから検出されることもある。その髄膜炎菌が、本来細菌が存在しないはずの血液や髄液中に侵入して起こる感染症が「侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)」だ。髄膜炎の中でも、進行が非常に速く、重症化しやすい。世界保健機関(WHO)の報告では、発症から2日以内に5~10%の患者が死亡するという。

 発熱や頭痛、吐き気など風邪に似た症状から始まり、続いて首の硬直や皮下出血、けいれん、意識障害などが起こる。首や頭を動かすと髄膜が引っ張られ、耐え難い痛みを感じることも。

 宮入医長が以前、米国で診た患者は「風邪のような症状が表れてから半日もたたないうちに意識障害に陥り、集中治療室に運ばれた。手足の細胞が死ぬ壊死(えし)が進み、結局、手指を切断することになった。もう少し遅かったら命も危なかった」という。

 治療は抗菌薬を点滴などで投与する。患者の周囲にいて感染の可能性がある人にも予防的に投与することが多い。

■5人に1人死亡

 日本では2013年4月から翌年12月までの間にIMDに59人がかかり、うち11人が死亡した。致死率は約19%、つまり5人に1人が亡くなっている計算だ。「海外では乳幼児と青年の発症が多いが、日本では若年層を含め幅広い年代に見られる」(砂川室長)。最も多い世代は50、60代で、男性が目立つ。

 集団発生も起きている。11年5月、宮崎県の高校の学生寮で5人が感染、うち1人が死亡した。昨年夏、山口県に162の国・地域から約3万人が集まり開かれた世界スカウトジャンボリーで、海外参加者の中から帰国直後に感染者が出た。

 ザ・キング・クリニック(東京・渋谷)の近利雄院長は「IMDの感染は共同生活や集会など、多くの人が集まる場所で起こりやすい。国境を越えた人の往来も感染機会を増やす」と話す。海外ではアフリカ中部をはじめ、中国やインド、北米、南米、ヨーロッパなどに流行地がある。

 予防に有効なのが、ワクチンの接種だ。たとえば「米国では10代のときにワクチンの定期接種を実施し、学生寮に入る大学新入生や留学生にも接種を義務づけている」(近院長)。

 日本でも昨年5月から「髄膜炎菌ワクチン」を接種できるようになった。ただし任意接種で、1回2万円前後の費用がかかる。1回打てば約5年間、予防効果がある。仕事や観光などで流行地に行く人、海外留学する人などはワクチンを接種しておいた方がいいと専門家は口をそろえる。「ブラジルも流行地の一つ。8月のオリンピックに行く人も検討した方がいい」と近院長。

 4年後には東京オリンピックが開催され、世界各国から大勢の人が日本を訪れる。今後はこれまで以上にIMD対策が必要になりそうだ。

◇     ◇

■接種は出発2週間前までに

 髄膜炎菌ワクチンは、細菌の毒性をなくした不活化ワクチン。接種後、注射を打った部位の発赤やうずく痛み、筋肉痛、だるさ、頭痛などが出ることがあるが、数日で消える。「輸入ワクチンも含め、11年前から使っているが安全性に問題はない」と近院長。流行地に渡航する場合は、最低でも出発の2週間前までには受けておきたい。

 主な接種対象者はビジネスマンや旅行者、留学生、医療従事者、中東への巡礼者など。近年は渡航者の増加で接種者が急増しているという。「今夏ブラジルに行く人は髄膜炎菌の他にA型肝炎や腸チフス、旅行者下痢症のワクチン接種も検討してほしい」(近院長)

(ライター 佐田 節子)

[日経プラスワン2016年7月2日付]

【関連キーワード】

髄膜炎

健康・医療

ALL CHANNEL