「どうしても朝起きられず、学校に行けない」。昨年11月、スリープクリニック銀座(東京・中央)の子供専門の睡眠外来を中学3年の男子生徒が両親と訪れた。いじめが原因で不登校に。数カ月で朝、起床できなくなった。学校側の対応でいじめの心配は小さくなり、「登校したい」と望む。だが体がついてこない。
睡眠障害の子供を延べ1万人以上診察したという同クリニックの遠藤拓郎院長は「ここ数年、小学校低学年でも症状が出るケースが増えている」と指摘する。睡眠障害の代表例、不眠症は仕事上のストレスなどから大人に多い。子供の場合はゲームやスマートフォンなどで夜更かししても眠れないことは少なく、就寝時間よりも起床時間が遅れることが問題という。
朝に光浴び調整
原因のひとつは体内時計の乱れだ。体内時計は1日周期で、日中は自然に体や心が活動状態に、夜間は休息状態になる仕組み。朝に光を浴びるとリセットされ、次の周期に入る。
子供は成長や身体・神経の休息のため、大人より長い時間眠ることができる。学校や行事がなければ昼すぎまで寝てしまいがちだ。
夏休みや冬休み、不登校で連続して「遅起き」になると朝日で体内時計を調整できなくなり、昼夜が逆転し「睡眠リズム障害」に陥る恐れがある。遠藤院長は「普段通り起きる習慣を崩さないことが大切。特にホルモンが分泌され、成長に重要な午前0~6時は必ず睡眠を」と呼び掛ける。
治療では徐々に体内時計を元に戻していく。毎日数時間、強い光を浴びて調整するほか、専用のメガネをかけて目から光を取り入れ、リズムにメリハリをつける「高照度光治療」などが主流だ。
予防のため、家庭で注意すべき点は何だろうか。
スリープクリニック銀座が161人の中学3年生を調査したところ、日曜日の起床時間が「午前8時以降」から「正午以降」までの生徒の半数以上が「平日も起きるのがきつい」と答えた。平日との起床時間の差が大きいほどその傾向は強く、睡眠障害の予備軍にならないためには休日の早起きが重要だ。
診療所などには乳児についての相談が寄せられることもある。寝かしつけたはずが親の就寝時間に起きていて、「眠れていないのではないか」と不安が募る。ただ乳児の睡眠は4時間周期で、実際は十分寝ている場合が多い。乳児と寝るタイミングを合わせていけば心配は減るという。
いびきも悪影響
一方で深夜に目を覚まして1時間以上起きていたり、1日の合計睡眠時間が9時間より短かったりすると要注意だ。子どもの睡眠と発達医療センター(神戸市)によると、睡眠障害の恐れがある。ストレスから親まで睡眠障害になる例は多く、早めに医療機関に相談する必要がある。
3歳以上で多いのが、いびきや睡眠時無呼吸症候群の相談だ。幼児は気道が狭く、へんとう腺などが腫れると圧迫されやすい。いびきがひどくなると呼吸が止まってしまう。
成長するにつれ改善されるが、放置すると睡眠不足のため成長が阻害される。常に眠い状態になり、学習にも支障が出かねない。うつぶせや横向きに寝ると気道の圧迫が緩和されるため、試していびきが弱まるかどうか確認したい。
子供の睡眠外来は増えつつあり、インターネットで調べることができる。様子をよく観察し、「あれ?」と思ったらすぐ専門家を訪ねてみよう。
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不登校児の80% 睡眠リズム異常
子どもの睡眠と発達医療センター(神戸市)によると、不登校の状態になった子供のうち、約80%に睡眠リズムの異常がみられる。(1)徐々に起床時間がずれて昼夜逆転した(2)どの時間に眠っているのかが特定できない――などのケースだ。
校内でトラブルがなくても「慢性的な睡眠不足で突然朝に起きられなくなり、不登校になる場合がある」(同センター)。
文部科学省の問題行動調査によると、2014年度に病気や経済的な理由以外で年間30日以上欠席した不登校の小中学生は12万2902人(前年度比2.7%増)。2年連続で増加し、調査対象の児童・生徒の1.2%に相当する。
不登校のきっかけ(複数回答)としては「不安など情緒的混乱」が29.8%で最も多く、「無気力」が25.9%で続いた。
(鈴木卓郎)
[日本経済新聞夕刊2016年6月23日付]