やなぎみわ演出 移動舞台車で巡業老若の熱狂匂い立つ旅路

「日輪の翼」の稽古をする出演者ら(大阪市住之江区のMASK)
「日輪の翼」の稽古をする出演者ら(大阪市住之江区のMASK)

現代美術家・やなぎみわが演出する野外劇「日輪の翼」が24日幕を開ける。派手な電飾が施され、妖しい花が描かれた移動舞台車で各地を巡る。4年ごしのプロジェクトの最終章だ。

大阪市住之江区のアート施設「MASK(メガ・アート・ストレイジ・キタカガヤ)」では本番に向けた稽古が佳境を迎えていた。ステージとして使われるトレーラーの周りを5人のオバがエネルギッシュに動き回り、若い男女がなまめかしく絡み合う。タップダンスやポールダンスも採り入れ、「ステージを飛び出し大胆に動き回る演出にこだわった」(やなぎ)。

中上健次が原作

原作は8月に生誕70年を迎える作家・中上健次(1946~92年)の長編小説。物語は中上の故郷・紀州の「路地」から始まる。都市開発で「路地」を追われた老女を若い男たちが冷凍トレーラーに乗せ、伊勢や恐山など全国の聖地をさまよう。若者のわい雑さと老女の深い信仰心が混交し、濃厚な生の営みが匂い立つ。

「花鳥虹(かちょうこう)」と名付けられた移動舞台車(ステージトレーラー)も美術作品の一つだ。移動舞台車は台湾で普及していて、荷台を広げるとステージになり、歌謡ショーや選挙演説などに使われる。「10年以上前、台湾で初めて見た時から心に引っかかっていた。盆踊りのやぐらのように周りを人々が囲んでわいわいやっている様子に魅力を感じた」

「花鳥虹」の制作を始めたのが2013年。外装は台北、内装は京都で、いずれも現地の学生らと共同でデザインしていった。特に内装は派手な電飾を施し、架空の花「夏芙蓉(ふよう)」が燃え立つように描かれる。中上小説の中で「路地」の愉楽を象徴するものとして頻繁に登場するモチーフだ。ステージ側面の垂れ幕は日本画家の三瀬夏之介ら「東北画は可能か?」に取り組むチームとともに創作に当たった。

14年の横浜トリエンナーレでお披露目。大阪や京都の芸術祭でも展示され、各地でポールダンスの公演などを開いた。「それら全てが『日輪の翼』公演のため」(やなぎ)で、今回の野外劇は一連のプロジェクトの集大成となる。

公演は6月24~26日の横浜赤レンガ倉庫イベント広場を手始めに、中上の故郷の和歌山県新宮市(8月6日)、高松市(同27、28日)、大阪市(9月2~4日)を回る。この巡業自体が中上作品へのオマージュだ。「原作は中上自身がオバたちをあちこちに連れ回した。今回は私がオバや物語自体を連れ回す。それが小説の世界を再現するのに最適だと考えた」

やなぎはCGや特殊メークを駆使した写真作品で名を上げた。90年代に発表した連作「エレベーター・ガール」では、没個性的な女性たちを消費社会の象徴として提示。続く「マイ・グランドマザーズ」のシリーズは、若い女性が望む50年後の姿を演じさせた。そこでの女性たちは自らの人生を謳歌しているようにも見える。老若、虚実が入り乱れた様子は2000年以降の作品「フェアリー・テール」などでさらに加速する。

豊穣な演劇作品に

本格的に演劇に足を踏み入れたのは10年ごろから。13年制作の「ゼロ・アワー~東京ローズ最後のテープ~」は、戦中に米軍向けの宣伝放送に携わった5人の女性アナウンサーが主人公。彼女らは女性であるがゆえに運命に翻弄されていったが、「日輪の翼」のオバや道中で出会う若い女性たちは屈託なく女であることを受け入れている。

以前は女性の抑圧された面に焦点を当てていたが、次第に、老若にかかわらず女性が奔放に生きる姿をすくい取るようにもなってきた。その変遷は美術でも演劇でも同じようだ。「狙ったわけではなく、そういう体質なのかも。押さえつけられる力が強ければ強いほど、次に発散する力が強くなるんだと思う」

老女と若者のあてどない旅を通し日本各地と路地を接続させた「日輪の翼」。女性の若さや老いを媒介に日本社会の問題を問うてきたやなぎが、トレーラーの上で豊穣(ほうじょう)な演劇作品として結実させる。「老若、生死が混じり合い、血なまぐささが感じられるような見せ物にしたい」と力を込めた。

(大阪・文化担当 安芸悟)

[日本経済新聞夕刊2016年6月20日付]

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