異常気象で読み解く現代史 田家康著複数要因の絡み合い解きほぐす

地球史という視点で、気候と文明の関係について本を出してきた著者が、人間活動に基づく地球環境問題が顕著になってきた現代を考えた著作である。気候変動を契機とした人間社会の対応が多く語られている。

(日本経済新聞出版社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「はじめに」の中で使われている人新世(人間の活動が地球環境に影響を及ぼすようになった時代)という言葉とプロローグで紹介されているPDO(太平洋10年振動)などの10年スケールの内部変動の紹介に、気候変動とは、内部変動や自然起因の外部要因による変動、そして、人間活動に起因する変動の綾(あや)なす世界であり、その綾を解きほぐしてゆこうという意図が感じられる。

その切り口として、5つの現象が選ばれている。第1章は、1930年代のアメリカのダストボウル(砂塵(さじん)嵐)である。そして、その背景には、誤った農業政策があったことが明らかにされる。このような中で土壌保全を主張したヒュー・ハモンド・ベネットの話は印象深い。第2章は、50年代の中国の大飢饉(ききん)である。これに関しては、大躍進政策の失敗であることが記される。中でも、ソ連の農業生物学者ルイセンコに触れているのが印象的である。第1章は、科学的な知見が社会的に有効に用いられた例であるが、間違った科学が政治権力と癒着したときの危険性を忘れてはならないであろう。

第3章は、80年代の核の冬に関連する話題である。核軍縮をめぐる科学と政治の関係が語られている。大気中のエアロゾル(微粒子)の全地球的な影響を皆が認識したことが重要であろう。第4章は、「平成の米騒動」として知られる93年の日本の冷夏である。この年の冷夏は、2003年の冷夏とともに、10年周期の変動を世間に大きく印象づけることとなった。そして、第5章は、地球温暖化論争の歴史が語られる。これに関しては、類書も多くあり、温暖化を巡る政治の動きや科学者の動きが述べられている。

「人新世の時代の気候変動」というエピローグのタイトルが著者のまとめを表している。「人新世の時代の気候変動」は、プロローグで述べられた3つの要因が絡まって引き起こされる。しかも、それが人間社会の政治の対応により増幅される。そこでは不確実性が不可避である。著者は、その中で確実なものとして大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の増加を挙げている。不確実な世界とはいえ、なかには確実な事実も存在する。それらに基づき、合理的な判断をすることが重要なのであろう。

(東京大学名誉教授 住 明正)

[日本経済新聞朝刊2016年6月19日付]

異常気象で読み解く現代史

著者 : 田家 康
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,944円 (税込み)