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英国が欧州連合(EU)から離脱するか残留するか、国民投票で決めるそうね。もし離脱が決まったら、日本にも影響があるのかな。

英国のEU離脱問題について、田辺すずさん(21)と木村美弥子さん(47)が菅野幹雄編集委員の話を聞いた。

英国が国民投票で離脱の是非を問うそうですね。

「今月23日の国民投票は『英国はEUに残留すべきか、離脱すべきか』を二者択一で有権者に問います。英国(Britain)の離脱(Exit)=ブレグジット(Brexit)の可能性が注目されています。EUには28カ国が加盟していますが、過去に離脱した国は皆無です」

「英国は1973年、EUの前身の欧州共同体(EC)に参加し、2年後の75年には当時の労働党政権が残留か離脱かを国民投票で問いました。この時は残留が決まりましたが、島国の英国はその後も欧州大陸から一定の距離を置いてきました。単一通貨のユーロには加わらず、今もポンドを使っています。域内の国境審査を廃止し移動の自由を認める『シェンゲン協定』にも加盟していません」

「13年初め、保守党政権を率いるキャメロン首相は『EUに改革を求めたうえで、残留の是非を国民投票で問う』と宣言しました。当時EUからの離脱を掲げる英国独立党が徐々に支持を広げ、保守党内でもEUへの反発が高まり、混乱打破へ国民の信を問う賭けに出たのです。15年の総選挙で保守党が勝ち、16年2月にEU首脳が英国の特別な立場を認める改革案に合意して環境が整いました」

離脱派と残留派はそれぞれどんな主張をしていますか。

「離脱派が挙げるのは、EUの官僚主義の弊害です。加盟国がどんどん増えたことでEUの組織も巨大になりました。官僚機構が窮屈な規則を決めて英国民や企業の自由な活動を制約する一方、ブリュッセルのEU官僚は高給を得ているとの反発があります」

「EUの予算はこの10年間で4割も増えています。予算は各加盟国が経済規模などに応じて拠出するお金でまかない、インフラ整備や農業補助金に充てていますが、経済的に豊かで農業がそれほど盛んではない英国は持ち出しが多くなり、実質負担は年間約40億ユーロ(約5000億円)ともいわれます。年間30万人の移民の流入を制限でき、テロの可能性が低くなるというのも離脱派の主張です」

「一方で残留派は離脱したときの経済への悪影響を警告しています。現在は金融機関が英国の拠点で英当局の認可を受けるだけでEU域内の他国での支店開設などができます。離脱すればそのメリットがなくなり、ロンドンの金融街には大きな打撃になるでしょう。貿易で関税がかかるケースも出かねず、世界各国の企業が英国に置いていた欧州拠点をドイツやフランスに移すかもしれません」

「英政府の試算では、離脱すれば経済が3.6%収縮し、向こう2年間で50万人が失業して、ポンド相場は12%下落、賃金は3%下がると予想しています」

欧米諸国や日本の反応は?

「主要経済国である英国が離脱を決めると欧州が混乱し、金融市場の動揺も避けられないため、各国とも残留を強く求めています。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言はブレグジットを『世界の貿易や投資、雇用に悪影響を及ぼし、成長に向けた深刻なリスク』と指摘しています。英離脱をきっかけに欧州の分裂が進んだり、EUでドイツの力が突出しすぎたりする心配もあります」

「日本の企業経営者も懸念を強めています。日立製作所など英国に拠点を置く企業はたくさんあります。金融市場の混乱でポンドやユーロの相場が下落すると、相対的に安全通貨と考えられている円が買われて円高が進む可能性があります。株価も下がるでしょう」

投票結果をどう予測しますか。

「大接戦になるでしょう。残留派がリードしたり、離脱派が盛り返したりと、各種世論調査の結果も揺れ動いています。まだ態度を決めていない人も大勢います。一昨年、スコットランドで英国からの独立の是非を問う住民投票があった時には投票日の直前に残留支持層が増え、独立は見送られました。今回も終盤に残留派が伸びる可能性がある一方、1つのスキャンダルや事件で結果が一変する事態も考えられます」

ちょっとウンチク


「いいことない」地方に不満
 ロンドン赴任中の2013年初め、対岸にフランスを望む海峡の港町ドーバーに、英国のEU離脱について人々の意見を聞きにいった。トンネルやフェリーで大陸につながる玄関口だ。親欧州の雰囲気が強いのかと思いきや「EUの中で英国が不公平な扱いを受けている」「商店街がさびれた。EUに入って何かいいことがあるのか」という不満の声が優勢だった。地方のEUへの視線は今も厳しい。
 英国の人は大陸欧州を「ヨーロッパ」と呼ぶ。戦争の惨劇を繰り返すまいとするドイツやフランスのようなEUへの思い入れも希薄だ。究極のエリートで弁舌の巧みなキャメロン首相が残留を強く主張すればするほど、英国の有権者は「優等生の論理」を押し付けられる気になりはしないか。
 投票日まで10日。前日に米大統領選で共和党候補指名を確実にしたトランプ氏が訪英し離脱派を応援するとの情報もある。現状をとるか、変化を選ぶか。英国民の判断は国際政治の潮流を左右する。ドーバー海峡を隔てる霧は深い。
(編集委員 菅野幹雄)

今回のニッキィ


田辺 すずさん 国際関係論を学ぶ大学4年生。スウェーデンに1年間留学していた間に十数カ国を旅した。「北欧の豊かな自然と文化に感銘を受けました」
木村 美弥子さん 損害保険会社に勤務。クラシック音楽が好きで海外にもよく聴きに行く。「来年の正月はウィーンでニューイヤーコンサートを聴きたいですね」
[日本経済新聞夕刊2016年6月13日付]

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