続けやすい筋トレ法 歩くだけでは不十分
「ウオーキングで足腰を鍛えている」と胸を張る中高年は多い。ところが、筑波大学大学院人間総合科学研究科の久野譜也教授は「ウオーキングだけでは一部の筋肉しか使っていない。残念ながら運動をしているつもりでも筋肉がついていない人が多い」と話す。
筋量は20~30歳を頂点に、鍛える努力をしないと下降の一途をたどるという。30歳からは毎年約1%ずつ減る。20~30歳のときを100%とすれば、80歳では半分以下になる計算だ。「高齢者ほど筋力アップを心掛けてほしい」と久野教授。
肥満の原因に
なぜ筋肉は大切なのだろう。筋肉が減ると運動機能が落ちてよろけやすくなる。高齢者の転倒は骨折につながる。特に閉経後に骨粗しょう症になりやすい女性の転倒は避けたい。久野教授は「筋肉は骨にくっついているので筋肉を動かすと骨に負荷がかかり、骨密度の低下が緩やかになるとのデータがある」と話す。
それだけではない。筋肉量が減ると消費カロリーがダウンし、肥満になりやすい。筋肉は基礎代謝の約40%を占める。消費できない余分な熱量は内臓に蓄積することになり、積み重なると、中年太りや糖尿病などの生活習慣病の原因になる。
肥満の人が体重を落とすには、瞬発的な筋トレよりも消費エネルギー量の多い、有酸素運動が勧められる。ただし「そもそもエネルギーを消費してくれる筋肉を増やさないと有酸素運動も効果が薄い」と、肥満外来を開く水道橋メディカルクリニック(東京・千代田)の砂山聡院長。
それを裏付けたのが、筋トレで肥満体形を解消した経済評論家森永卓郎さん。森永さんが通ったライザップ(東京・新宿)の専属トレーナーの幕田純さんは「森永さんは仕事の移動は歩きと電車。有酸素運動は十分だった。週に2回約2カ月間の筋トレと、筋トレ2カ月前から糖質を抑えた食事にしたのが減量成功の決め手」と話す。90キロの体重が70キロに、32%の体脂肪率は26%になった。
森永さんは血糖値が高かったが、体重が減って筋肉量が増え改善した。筋肉は糖分を多く消費してくれるからだ。ただ、糖尿病の人は「筋トレでふんばったときに心臓発作や眼底出血を起こしやすく、注意や検査が必要」(砂山院長)だ。
何歳でもOK
では肝心の筋肉はどうすればつくのだろう。一般的に、筋肉量を増やすには「速筋」という瞬発力を発揮するときに使う筋肉を刺激する。すると乳酸という物質が作られる。「乳酸がたまると、筋肉の肥大を促すホルモンが分泌され、筋肉は大きく強くなっていく」(砂山院長)
加えて「筋肉の材料のタンパク質が十分に補給されていることが大切」(幕田トレーナー)。運動負荷をかけつつ、タンパク質を取ることで筋肉はできる。筋トレ後30分以内に、粉やゼリー状のプロテイン剤などを取れば吸収がよい。
筋トレといえば、ダンベル上げを思い浮かべる人も多いだろうが、つらいと続かない。誰でもできる、自分の体重を負荷に鍛える方法を提案してもらった(上図参照)。
コツは体の中でも大きな筋肉を使うことと、1つの動作に3秒かけて1秒姿勢をキープ、さらに3秒で元に戻すこと。「筋肉がつかない人は正しくやっていない場合が多い。負荷をかけたいところにかかっていない」と専門家は口をそろえる。
例えばスクワット。「本来は太ももや尻、大腰筋にかけたいのに、ふくらはぎの裏にかかっている人が多い。痛くなり、それ以上かけられずに力を抜いてしまう」(久野教授)。膝をつま先と同じ方向に曲げながら腰を落として椅子に座るようにし、膝はつま先より前に出さない。
負荷を高めるには、スクワットなら右図のように可動域を徐々に広げるといい。同じ刺激を続けるだけでは筋肉はつきにくくなる。10回を1セットできたら、2セット、3セットに。2カ月過ぎたらチューブやダンベルを使う。
「筋肉は筋トレ次第で何歳でも増やせる」(幕田トレーナー)。筋トレは生涯続けるものとの意識が大切だ。
(ライター 高谷 治美)
[日経プラスワン2016年6月11日付]
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